大井みさほ会員が、2月2日に西東京市民会館で開かれた東京雑学大学の第1072回講義で、「台所と物理 -台所は理科の実験室」というタイトルで、およそ50名の受講生にスライドを使って講演を行いました。
はじめに東京雑学大学の菅原珠子理事長から紹介があり、今回で大井会員の講義は5回目であることが告げられました。最初の講義は平成20年で、だいたい2年ごとに講義をしているそうです。
紹介を受けて講義が始まります。
物理学関係の仕事をしてきた人にとって、台所はまるで理科の実験室。熱に関係する機器にしても、ガスバーナー、電熱器、マイクロ波加熱器などの熱を加える装置、それにアルミ鍋、鉄鍋、ステンレス鍋、土鍋、圧力鍋などの加熱用の容器、保温器など。そういう視点で台所と物理の関係をみて、また人が毎日必要とするエネルギーについても考えてみたい、というのが今日のテーマです。
測定する
測定は科学の基礎です。台所には様々な測定器具があります。体積(容積)を測るメジャーカップやスプーン、質量を図る台秤やばねばかり、時間を測るタイマー、温度を測るガラス温度計やバイメタルを利用した揚げ物用温度計、濃度を測る塩分濃度計。
力学
調理をしたりするために、力を加えます。力はモノを動かすとき、動いているモノの速さを変えるときに必要です。モノが重いほど、あるいは速さを急激に変えようとするほど、大きな力が必要です。
速さの変化の割合を加速度と言います。
力=質量X加速度
圧力=単位面積当たりの力=力/面積
一定の速さで動き続けるときは力は必要ない(実際は摩擦などの抵抗があるのでそれに見合う力が必要)。
ということで、ニュートン力学の3つの運動法則が成り立ちます。
3つの運動の法則に加えて、2つの物体の間に働く万有引力の法則があります。地球上のすべての物体も、その物体と地球の間でこの法則が成り立ちます。昔習って混乱したことの中に質量と重さがありました。質量はその物体のもともと持っている量で、gやkgで示します。一方で重さはその物体にかかる重力(地球上では地球の引力による)のことを言い、単位はニュートン(N)を使います。1㎏の物体に対する重力の強さは9.8N(約10N)です。したがって50㎏の人の重力はおよそ500Nになります。昔はニュートンを使わずにkg重とならいましたね。
包丁で切ったり、缶切りで缶を開けたりするときには、力学が関係します。これ以外にも、台所での仕事には「力」が加わって行われるものがたくさんあります。すり鉢、ミキサー、、。急須の底にくっついたお茶っ葉を引き離すとき、逆さにしてとんとたたきますよね、あれは慣性の法則を応用しているのです。
熱力学
熱も物理学の重要なテーマです。煮炊きに熱は欠かせません。熱の逃げ方には、熱伝導、熱放射、対流があります。鍋の材料の熱伝導率を比べると、銅が一番熱伝導率が大きいことが分かります。保温するためには逆に熱伝導率が小さなもので囲むことが必要になります。真空を利用した魔法瓶が良い例ですね。
電磁気学
電磁気学の基本にマクスウェル方程式があります。これを式でなく言葉で表すと、次のようになります。
これを応用したものにマイクロ波オーブン(電子レンジ)があります。電子レンジはマグネトロンから出る2450MHz(波長12.2cm)のマイクロ波を利用して、商品中の水分子(+とーが偏った双極子)を振動させてその摩擦熱で温めます。扉の金網は12.2cmより穴径が小さく、マイクロ波が通り抜けないようにしています。
ですから水を含んだ食品でなければ温まりません。試しに水、バター、サラダオイルを同量とって電子レンジにかけましたが、水以外の温度は上がりませんでした。
熱力学に戻って
液体が蒸発するときは蒸発熱を奪います(夏の打ち水)。これを利用したのが冷蔵庫ですね。
冷媒としてはフロンに代わって、現在はイソブタンが使われています。
力学と熱学をつなげたジュールの実験は有名です。水槽に入れた6リットルの水を、13㎏の錘2個を1.6mの高さからゆっくり下げてることによって羽根車を回転させて撹拌して温めました。20回繰り返したときに0.3度℃上昇したので、水1gを1℃温める1カロリーは4.2ジュールと求められました。
ここで基礎代謝量と、それぞれの仕事に要するエネルギー、それを補うための食品のカロリーを考えてみました。
光学
最後に光学です。野菜などを洗うとき、白いお皿が細かい土や砂などの洗い残しを際立たせてくれるので重宝します。
いろいろと例を挙げましたが、台所は理科の実験室ですね。
講義終了後、質疑応答がありました。台所での調理を誰かのためだなどと考えると嫌になることもあるけれど、今日、教えていただいたいろいろなことを考えながらやると楽しくなりそうです、という感想が印象的でした。