上ノ山 周会員が、12月20日の午後に船橋市中央公民館で開催された船橋市ちゅうおう生活学校で「私たちを取り巻く環境問題 マイクロプラスチック汚染について」というタイトルで講演を行いました。聴講したのは、船橋市生活学校運動推進協議会事務局長・会長代行の大西智子氏をはじめとする同校の学生およそ35名でした。
講義は、1)プラスチックとは何か?2)その性質、開発の歴史的経緯、3)2つの重合形式(付加重合と縮重合)、4)種類(ビッグ6等)、5)処理問題、3つのリサイクル手法等について、順を追って平易に解説しました。
1)プラスチックとは何か?
プラスチックという言葉はだれでも知っています。英語のplasticからきたこの語は、可塑性を意味し、必ずしも合成樹脂を意味するものではありませんでしたが、日本語として定着して、プラスチックというと、レジ袋や包装用の透明容器、トレーなど、さまざまな合成樹脂の製品を指す用語として使われています。
2)その性質、開発の歴史的経緯
天然の樹脂である天然ゴムやアスファルトに代わるものとして、初めて工業製品としてつくられた合成樹脂がフェノール樹脂(ベークライト)でした。名前が示すように、フェノール(石炭酸)とホルムアルデヒドを重合して作られました。耐熱性と絶縁性に優れているので、自動車部品や電気製品によく使われています。子供のころには、ベークライト製品があふれていました。今は懐かしい黒電話がそうですし、スタート35というカメラの筐体がそうでした。
フェノールのようにもとになる分子をモノマーと呼び、重合してできたものをポリマーと呼びます。ベークライトに続いて、このモノマーとして使う分子がさまざまに工夫され、それぞれ性質(特性)の異なるプラスチックが開発されました。
エチレンをモノマーとするポリエチレン(PE)、プロピレンをモノマーとするポリプロピレン(PP)、塩化ビニルをモノマーとするポリ塩化ビニル(PVC)、テレフタル酸とエチレングリコールをモノマーとするポリエチレンテレフタレート(PET)など、枚挙にいとまがありません。
プラスチック類は、金属のように錆びたり腐食せず、また軽い、形成が容易であるなどの特徴のほかに、耐熱性、絶縁性に優れているなどの長所がたくさんあるので、特性を生かした多くの製品がつくられています。多くのモノマーは石油を蒸留したナフサから得られるので、石油化学工業は大いに発展することになります。
3)2つの重合形式(付加重合と縮重合)
プラスチックは、分子量の小さなモノマーを触媒により重合させて、高分子のポリマーにしたものです。重合の仕方には主に二つあります。
付加重合というのは、二重結合を持つモノマーが、二重結合が開いて隣の分子同士が結合を繰り返していく反応です。次の図はエチレン2分子が付加重合する反応で、これが繰り返されて長いポリマー、ポリエチレンになります。枝分かれ構造を作るようにすることもできます。
一方の縮重合(縮合重合)は、2つの分子の一部(官能基)が別の分子(例えば水)となって外れ、その結果、結合ができるような反応です。下の図はテレフタル酸とエチレングリコールが脱水縮合によって結合して鎖状に長いポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)を形成する例です。それぞれの分子の両端に官能基があるので、両側に伸びていくことができるのです。PETは合成繊維として使われるとともに、ペットボトルに利用されています。ペットボトルの名前はPETからきています。
最初に述べたフェノール樹脂(ベークライト)は、フェノールとホルムアルデヒドが付加重合した後に、これが別のフェノールと縮重合したものです。このように付加と縮合が同時に起こる重合を付加縮合と呼んでいます。重合度が小さいもの(レゾールと呼ぶ)に熱をかける熱硬化反応により、分子量の大きなフェノール樹脂を作っています。
4)種類(ビッグ6等)
2)で述べたようにプラスチックには多くの長所があります。欠点としては熱に弱い、傷がつきやすいことなどがあげられますが、最大の欠点は自然環境下では分解されないことです。
私たちの身の回りのプラスチックのうち、33%は包装材として使われていて、家庭ごみとして廃棄され、30%は建材として使われ不要になると産業廃棄物として排出されます。環境省のPlasticsSmartの資料によりますと、1950年以降に世界中で生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄されている、回収されたプラスチックごみの79%が埋め立てあるいは海洋に投棄されていて、リサイクルされているプラスチックは9%に過ぎないと書かれています。
排出されたごみは埋め立てられていましたが、現在では埋め立てによる処理は限界となり、リサイクルすることが課題となっています。リサイクルの際に、プラスチックの種類ごとに別々にリサイクルする必要があるために、アメリカでは1988年にプラスチック産業会が6つのプラスチックに番号を付けてリサイクルの矢印マークと組み合わせた樹脂識別コード(RIC)を制定しました(下の図)。
しかしながら日本では、資源の有効な利用の促進に関する法律(略称、リサイクル法、2001年4月施行)で表示が定められているのはPET(図柄は3つの矢印と1)のみで、その他のプラスチックは一括して四角い2本の矢印とプラの表示のみです。
次に述べるリサイクル手法をさらに有効に行うために、消費者として身近にあるプラスチックがどのような種類であるかを認識して、将来、さらに細かい分別収集ができるように準備をしておくのがよいのではないかと思います。
5)処理問題、3つのリサイクル手法
便利なプラスチックですが、自然環境下では分解されないために、適切にリサイクルする必要があります。リサイクルの方法には主に3つの手法があります。リサイクルされる割合の多い順に、サーマルリサイクル、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルとなります。
(1)
サーマルリサイクルは、文字通り熱源として使う方法で、焼却時の熱で発電をしたりします。現在、一般廃棄物を燃やす焼却施設は全国に2000か所以上ありますが、燃やす時の熱や蒸気を近くの健康施設や老人施設に送り、暖房や浴場の温水、また温水プールに利用しています。
(2)
マテリアルリサイクルは、回収したプラスチック製品をもう一度、新しい製品にする方法です。そのためには、ペットボトルならペットボトルだけに分別する必要があります。ラベルを外してきれいに洗ったペットボトルを、圧縮して保管します。これを処理業者が粉砕、風力分離、洗浄、比重分離を行い、8㎜程度のフレーク状にします。このフレークを利用して再度ペットボトルとして利用したり、食品用トレイやレベルなど、幅広く再利用されます。フレークはさらに熱処理によって細かいペレットにして、衣類やその他の容器などに再利用されます。
(3)
ケミカルリサイクルは、回収したプラスチック製品を化学反応により組成変換をした後にリサイクルする方法です。上で述べたように、プラスチックは主に炭素と水素から成るので、熱処理によって可燃性ガスを得たり、油状燃料を得たりします。また溶鉱炉において鉄鉱石を還元して鉄を取り出す際の炭素源として使うのも、ケミカルリサイクルです。
いずれにしても、環境への負荷を減らすためには、3つのR、Reduce、Reuse、Recycleを心がけることが大切です。リサイクルは3Rの最後で、その前に使用を減らし、再利用に心がけたいものです。
リサイクル手法の開発と並行して、グリーンプラスチックと呼ばれる生分解性プラスチックの開発・利用も重要になるでしょう。天然物であるセルロースやキトサンを使ったもの、乳酸を重合させたポリ乳酸を使ったものなど、製品化されていますが、ポリ乳酸は高温(50~60°C)のコンポスト施設でなければ分解されないという問題点があります。
最近になってKANEKAが、細菌が少ない常温の海水中でも分解される新しい海水中生分解性プラスチックの開発と生産の工業化に成功しました。PHBH®です。PHBH®はポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の一種で、3-ヒドロキシ酪酸 (3HB) と3-ヒドロキシヘキサン酸 (3HHx) の共重合ポリエステルであるPoly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyhexanoate) (PHBHHx) の商標名です。
KANEKAは自社の高砂工業所の土の中から、偶然にPHBHを作り出す微生物Cupriavidus necatorを発見します。この細菌は、植物由来の油を分解して生じた脂肪酸から、β酸化経路で最終的に2つのモノマーCoAを産生し、別の酵素が2つのモノマーCoAを次々とつなぎ合わせてPHBHを産生し、自らのエネルギー源として貯蔵しています。
ただし、最初に見つかった細菌は産生するPHBHの量が少なかったので、遺伝子導入などの技術を使い産生量を高めました。そうして発酵や高分子技術を駆使してプラント建設に成功します。
こうして作られた製品サンプルのうち、スプーン、フォーク、ナイフを回覧して、見てもらいました。普通のプラスチックと変わりありませんね。これらの製品は、23℃の普通の海水中に88日間漬けておくだけで、かなりの程度、分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。PHBHのストローは、すでにコンビニのカフェで採用されています。
さらに、比重が1に対して大であるか、小であるかで、大まかにプラスチックが分別できることを演示実験しました。
ボウルに水を張り、ポリ塩化ビニルを入れると沈みますが、ポリオレフィン(ペットボトルの蓋、ポリエチレンやポリプロピレン)は浮きます。ポリ塩化ビニルは1.35から1.45、ポリエチレンは0.91から0.92、ポリプロピレンは0.90から0.91です。ちなみにペットボトルの本体であるPETは、比重が1.34から1.39なので沈みます。
ポリスチレンのスプーンは 、真水に沈みますが、食塩を溶かしていくと浮いてきます。ポリスチレンの比重は1.04から1.09なのです。プラスチックの比重一覧はここをご覧ください。
プラスチックは、当初は電気の絶縁体として開発されましたが、 白川英樹先生が、導電性ポリマーを開発された話もしました。導電性ポリマーとして開発されたのは、ポリアセチレンの薄膜でした。ポリアセチレンは、ポリエチレンのC-C結合が一つ置きに二重結合になった構造をしています。この二重結合の電子が、ヨウ素のような電子受容体を不純物として混ぜると、動けるようになり、電子の流れ、すなわち電流となるのでした。
白川秀樹先生は、この発見によって2000年にノーベル化学賞を受賞しています。ちなみに、2019年度のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏のリチウムイオン電池は、この導電性アセチレンがヒントとなり、これを改良することで、現在のようなリチウムイオン電池の開発につながりました。
さて、プラスチックについていろいろと述べてきましたが、現在、最も大きな問題となっているのは、マイクロプラスチックによる海洋汚染です。マイクロプラスチックというのは、5mm(1mmという意見もある)以下の細かいプラスチックの微粒子を指し、生分解性ではないプラスチックが海洋投棄をされたり、めぐりめぐって海に入りこんだりして、波の力と太陽光、特に紫外線によって形成されたものと、研磨剤などとしてもともと微粒子として生産されたものがあります。
マイクロプラスチックは、北極海でも見つかっており、考えているよりも広く汚染されている恐れがあります。
マイクロプラスチックが生物に与える影響については様々な議論がありますが、摂食されて物理的に影響,傷害や閉塞、を与えたり、マイクロプラスチック表面に吸着された有害な化学物質が悪さをすることが考えられます。さらなる研究と先を見越した対策が必要になるでしょう。役に立ちそうな記事がここにあります。
世界中でその解決が喫緊の課題となっている「プラスチックによる環境汚染問題」を、自分のこととして意識してもらう切っ掛けになったとすれば幸いです。