大井みさほ、奥田治之、小林憲正、佐々田博之、西原寛、和田勝会員が、11月9日の午後に、東村山第一中学校で、2年生の生徒115名に対して実験授業を行いました。この活動は「東村山夢と希望プロジェクト」から依頼されて行う出前授業で、2年生の生徒全員が6つに分かれて、それぞれのテーマを午後の1コマの授業で行いました。上記会員のほかに、町田武生、進藤哲夫会員と髙田健司東京理科大学助教さんが助っ人として加わりました。
実際の活動前に、Zoomによるリモート会議を同校の校長先生と理科担当の先生を加えて2回行い、またメールのやり取りにより内容や準備の相談を行いました。
授業は昼休み後の午後13時30分から14時20分まででしたが、各会員ともに午前12時過ぎに学校に集まり、ひと休み後に各教室に分かれて準備を行いました。当日のテーマは以下の通りです。西原寛会員「金属の不思議-金の色を変えてみよう-」、和田勝会員「ゾウリムシで遊ぼう、学ぼう」、小林憲正会員「宇宙人は左きき?-生命の起源を右と左で考える-」、大井みさほ会員「光の進み方を調べてみよう」、奥田治之会員「日時計の仕組み」、佐々田博之会員「マイ分光器を作ろう」。各会員からの報告書と、町田武生会員撮影の写真と海老塚校長先生より頂いた写真で、当日の模様を再現してみます。
「金属の不思議-金の色を変えてみよう」
同じ物質でも原子の集まり方によって、色が変わることを、金を用いて観察することを授業内容としました。実験に入る前に、中学2年生で学習した「酸化」と「還元」の定義の拡張(高校レベル)を教えました。次に金の原子の集め方として、酸化された金(塩化金酸)の水溶液に還元剤を加えると、生じた金の原子が凝集する方法があることを教え、実験内容として、還元剤としてクエン酸ナトリウム(還元剤1)を用いると、凝集が途中で止まって直径10~100 nmの金のナノ粒子が生成すること(実験1)、水素化ホウ素ナトリウム(還元剤2)を用いると、それよりずっと大きな金のかたまりを生成すること(実験2)を説明しました。
4名ずつで班をつくり、5班で2つの実験を行いました。実験1では、ガスバーナーで加熱して酸化された金の水溶液に、還元剤1を加え、色の変化を観察しました。最終的に濃い赤色の溶液となることを理解しました。実験2では、固体の還元剤2に酸化された金の水溶液を加え、生じた黒い沈殿を取り出して擦り、金色に輝く固体であることを理解しました。2つの実験を通して、酸化された金の還元による金原子の集まり方によって、色が異なることを理解できたと思います。 最後に、実験で観察したことが何故雄なるのかを説明して、生徒の感想を聞いて、授業を終了しました。
「ゾウリムシで遊ぼう、学ぼう」
単細胞生物であるゾウリムシの、運動(遊泳)、摂食(食物の取り込みと食胞形成)を観察し、授業で学習した多細胞生物ヒトのそれぞれの機能と比較しながら説明しました。
最初はシャーレに取り分けたゾウリムシを肉眼で眺め、次にスライドグラスにゾウリムシを含む水を一滴、滴下し、カバーグラスをかけて観察してもらいました。ゾウリムシがどのように遊泳しているかを観察してもらい、どうしてこのような運動が起こるかを考えさせました。次に塩化ニッケル水溶液を加えると繊毛運動が停止することを観察しました。ヒトでは繊毛は気管上皮細胞にあって、吸入した異物を粘液が捕捉して繊毛運動によって口に戻して痰として吐き出すことを説明しました。また10㎝程の2本の細いビニールチューブを両端と真ん中の3か所を輪ゴムで束ね、片方をずらすとチューブが曲がることを示して、繊毛の中にもこのようなチューブが9本(真ん中には2本)あって、ずれることによって屈曲することを説明しました。ここにはエネルギーが必要で、塩化ニッケルはそれを阻害するために運動が停止することも付け加えました。
次に、あらかじめ用意しておいた乾燥酵母菌をコンゴーレッドで染色したものを与え、ゾウリムシが食胞として取り込むことを観察してもらいました。体の中が赤くなっている、という声が上がったので、観察できたのだろうと思います。食胞として取り込まれてその中で消化されることを説明し、ヒトではどのように消化しているかを説明しました。ヒトの場合は消化酵素を細胞外(消化管の中)へ分泌し、消化してアミノ酸やグルコースになったものを小腸の絨毛上皮細胞から取り込んでいることを説明しました。 最後に単細胞生物は、一つの細胞ですべてをこなすが、多細胞生物では分業していることを説明しました。50分と時間が短く、予定したか第3つのうち2つしかできず、また問いかけをして考えてもらうというというプロセスもほとんどできなかったのが残念でした。
「宇宙人は左きき?-生命の起源を右と左で考える-」
4名ずつ5班に分かれてもらい、分子模型セット、コガネムシ、左右円偏光フィルター、鏡を各班毎、パワーポイントのハンドアウトと質問の解答用紙を各生徒に配布しました。
まず生命とは何か、生命がどのように誕生したかについて、これまでどこまでわかっているか、その中で、アミノ酸のような生体分子が左右対称でないことが重要であること等を解説しました。
実習としては、分子模型を使って4つの結合手をもった炭素原子に4つの異なる原子(団)を結合させた場合、2種類の分子(鏡像異性体)が可能なことを確かめました。次に、コガネムシの翅を左右円偏光フィルターを通して観察すると異なった色に見えること、鏡に写した場合は結果が逆になることを確認してもらいました。これらのことから、地球生命が分子レベルで非対称であること、それが生命の本質に関係することを考えてもらいました。 後半は、地球外生命の存在の可能性について考えてもらいました。太陽系でも火星、エウロパなどの天体に生命が存在するかもしれないこと、その探査が行われていることを紹介しました。火星や金星には、かつて地球に似た環境があったが、現在はその環境が大きく変わってしまっったことなどから、地球外生命を考えることは、私たちの環境・文明を護っていくことにも通じることを理解してもらいました。
「光の進み方を調べてみよう」
光の進み方を調べるというテーマで、初めにレーザーについてその原理などを説明しました。
次に、レーザーポインターの光とふつうの光の進み方を示した後、生徒たちに空気中と、牛乳を入れて少し濁らせた水中をレーザーポインターから照射した光が、どのように進むか、どのように反射するかを観察してもらいました。照射する角度によって、光束は全反射することを確認してもらいました。
その上で、光ファイバーの中を光はどのように進んで、長い距離を端から端まで届くのかを考えてもらい、観察してもらいました。
「日時計の仕組み」
日時計の原理を説明し、代表的な日時計の型を示し、実際例の写真を見せながら、日時計の歴史などを紹介しました。その後、紙細工の日時計の制作を行ってもらいましたが、生徒全員がやや複雑な型を選んだため、制作に時間がかかりすぎて、完成には至りませんした。
そのため、室外での実地試験の余裕がなくなってしまい、持って行った自作の日時計で、実際の太陽光にあて、動作を確認して見せました。そのあと、日時計の持つ特性(季節による進み、遅れ)や、それと、地球の公転、自転との関係を説明しましたが、十分な時間が取れなくて、丁寧な説明はできませんでした。実験、工作を含む授業では時間の余裕が必要と思われました。
「マイ分光器を作ろう」
「マイ分光器を作ろう」という題目で1校時(45分)で簡易分光器を自作し、室内照明光と太陽光を観測しました。
時間が短いので、説明は5分程度で済ませ、製作を優先しました。作業をある程度済ませておいた型紙を折り曲げ、回折格子シート500 line/mmをはり付けてもらいました。早い生徒は15分で作り、30分で全員(19人)が完成しました。
分光器で照明(LED蛍光灯)、太陽(フラウンホーファー線)を観測しました。連続スペクトル、元素は固有の波長の線スペクトルを持つことを説明し、天文学で遠くの物質を同定できる理由を述べました。自作の装置で綺麗なスペクトルが観測できて、生徒達も楽しんでいたようです。
出前授業の終了後、SSISS会員と髙田さん、東村山市立中学校の理科の教諭が一堂に集まり、反省会と意見交換を行いました。様々な意見や要望がだされ、SSISSとは今後とも対応していくつもりです、と応えました。