10月9日午後2時から3時40分まで、小林憲正会員が千葉県立佐原高等学校の1、2年生の理数科生徒72名に対して行われる理数科講演会の講師を務めました。佐原高校では、1年生は生物・化学、地学基礎,2年生は化学、物理を履修するため,これらの科目を横断するテーマとして「化学で探る生命の起源と地球外生命」というタイトルで講演を行いました。
約1時間半の講演を前半と後半に分け、前半は「生命の起源や太陽系についてわかったこと」、後半では「生命の起源や地球外生命について,わかっていないこと」としました。
特に強調したのは、今回の講演テーマが理科のさまざまな分野にまたがっていること、また、まだわかっていないことが多く、今後10〜20年で惑星探査がさらに進むことにより、新たな知見が多く得られる可能性があることを述べました。
講演の時間が限られていたため、質問があればメール等で受け付けることとしました。
その後、3件の質問があり、それぞれに小林会員から丁寧な解答を送っています。ここにそれらを載せておきます。
質問1 地球外生命の発見のために地球環境に似た環境を有した星(水がある星など)を中心に研究が進められていましたが、地球環境に似ていない星に地球外生命が確認できる可能性はどれほど考慮しているのでしょうか?(水や炭素が必要なく、ホルムアミドやケイ素を使用する生物の可能性)
回答1 水は,宇宙では非常にありふれた(豊富な)ものですので、それを溶媒に使う生物が多いように思います。ただし,それ以外のケースも想定はしておく必要はあります。太陽系の中でも土星の衛星のタイタンは表面に液体メタンの湖が確認されており、それを溶媒に用いる形態の生命の可能性は議論されています。タイタンでは、他に地下にアンモニア水、金星上空では硫酸を多く含む水が液体で存在しますので、そのようなものを溶媒に使うことは十分に考えられます。他ですと、ご指摘のホルムアミドの他、液体窒素、シアン化水素、硫化水素、フッ化水素なども、それらが濃集しているような環境があれば、候補になります。 一方、炭素も、宇宙できわめて豊富に存在しており、なおかつ、複雑な有機物を作れますので、「地球型」の生命には不可欠です。周期表の炭素の下のケイ素も手が4本あるので、巨大な分子を構成できるのですが、ケイ素は炭素と較べるとしなやかさに欠けるので、機能的には炭素生物の方が優れているのでは、と想像されます。ただ、生命の定義をどうするかによって、例えば粘土鉱物が最初の生命(機能をもつ物質)だったとする説もあり、また、人間がケイ素でAIをつくったように、高等生物がケイ素を人工的に使って新たな生命形態をつくった可能性は考慮していいでしょう。
質問2 宇宙人はいますか?
回答2 地球以外の環境で誕生・進化した生物は微生物も高等生物もまだ確認されていませんので、はっきりと「いる」証拠はありません。しかし、観測可能な宇宙に10の23乗個の恒星があり、その多くが惑星を持っていることがわかってきました。それだけ多くの「世界」があれば、たとえ生命が誕生する可能性が低くても、かなりの数の惑星に生命が誕生し、その一部では生物進化の末、知性をもった「宇宙人」にまで進化していると推定する方が、地球以外には全くいないと断定するよりもずっと可能性が高いように思います。宇宙人までいかない、「宇宙生命」ですと、今世紀中に太陽系の中でみつかる可能性があるのでは、と期待しています。「宇宙人」に関しては,彼らが発している人工的な電波がないかを探している「SETI」という取組が行われています。
質問3 先日、ノーベル生理学医学賞で、「マイクロRNAとその転写後遺伝子制御の仕組みの発見」と言うことで賞を受賞されていましたがマイクロRNAと生命の起源というのはどのような関わりがあるのでしょうか。
回答3 マイクロRNAがみつかっているのは、多細胞の生物のみで、動物では左右対称性や前後の区別などに関連した働きをしているようです。その意味では動物細胞内のマイクロRNAは生命の起原とは直接関係がないと考えられます。しかし、地球生命誕生時にRNAが重要な働きをしたとするRNAワールド説を取るならば、現在のメッセンジャーRNAのようなRNAがいきなりできたのではなく、もっと小さいマイクロRNAのようなものが最初にできたはずと考えるならば、現存のマイクロRNAと似たRNAが生命誕生の前後に重要名働きをした可能性は考えられます。