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松田良一会員:生物学教育にヒトの性を

日本の少子化は、性教育をこれまで真剣にやって来なかった文部行政がもたらした「人災」だ。

私は20年間にわたり、国際生物学オリンピックに関与し、世界各国の高校レベルの生物教育を比較してきた。日本の学校教育ではカエルの受精は教えるが、最も大事なヒトの生殖(性交や受精、着床、妊娠と避妊、胎盤、へその緒、分娩)や、性接触性感染症、感染に伴う不妊については全く教えない。

これらは、高校生物の学習指導要領に入っていない。わずかに保健体育で取り上げているが、その科学的記載は乏しい。一方、アジアを含む諸外国では、性に関する科学教育が充実している。日本では不妊治療の必要性を感じて受診した産婦人科医から、初めてクラミジア感染にともなう卵管采周囲癒着や閉塞(卵管性不妊)について知る。オランダではなんと13、14歳向けの生物教科書で、分かりやすく図解入りで説明している。コンドーム等の避妊具の装着法、さらにクラミジアや淋病など性接触性感染症にかかった場合、どのような症状が現れるかについても13、14歳でも自己診断できるように書かれている(*)。そして感染したら直ちに処方すべき抗生物質があることも教えている。他の多くの国も同様だ。各国とも、教室で教師が写真や図入りの教科書を使って、分かりやすく説明している。日本だけがこれを教えない、偏った「異次元の理科教育」を行っている。この違いは何によるものだろう?

日本では妊娠は成人後に学ぶべき事柄として、10歳代での教育の必要性を否定する文部科学省の「はどめ規定」により、初等中等教育における性教育のタブー化が浸透しているからだ。厚生労働省のデータによると、日本の20歳代女性のクラミジア感染率は5人に1人に上り、クラミジアに感染した女性の卵管狭窄や閉塞も増えている。同様に、現在、淋病感染者もふえつつあり、子宮外妊娠や卵管性不妊の原因となっている。

もちろん少子化の要因として、結婚率の低下や晩婚化といった社会的変化もあるだろう。しかし、まずは直ちに現行のはどめ規定による性教育の制限を撤廃し、他の国々と同様、ヒトの生殖を教育すべき範囲に入れることが、少子化対策の第一歩と考える。性接触性感染症を予防し、あるいは感染を早く認識して治療に向かわせる国際標準の性教育を始めるべきだ。このまま少子化が進行すると、ある計算では22世紀初頭には日本国民は半分以下になり、さらに減少は早まるだろう。文部科学省は、現状のヒトの生殖を教えない教育こそ、「異次元の教育」であることを認識し、これを早急に是正することから始めるべきである。

*「14歳からの生物学」 松田良一、岡本哲治監訳 白水社 (2020年刊)

上記とほぼ同じ内容のものが、日本経済新聞5月5日朝刊の私見・卓見欄に、掲載されています。

【引用されている本についての広報担当理事の補足】
ちなみに、この本の構成は、「Unit 1:呼吸、Unit 2:栄養と消化、Unit 3:循環系、Unit 4:生殖、あとがき・さくいん」と続き、それぞれのユニットは、「基礎」、「発展」、「まとめとテスト」、「応用」からなっています。

生殖のユニットを見てみると、「基礎」として
1 身体の変化
2 男性生殖器系
3 女性生殖器系
4 生理(月経)
5 性への関心(セクシュアリティ)
6 避妊(バースコントロール)
7 妊娠と出産
8 性感染症

「発展」として
9 その他の避妊の方法
10 その他の性感染症

「応用」として
1 動物の生殖
2 ピルの患者用添付文書

となっています。その他のユニットについては触れませんが、いずれのユニットも、呼気と吸気、食物と栄養素、血液・血液循環のように身の回りのことから始めて、それぞれの器官系に進んでいき、細胞や細胞小器官のレベルには立ち入っていません。13、14歳ですから日本の中学校の2、3年生にあたります。

千葉県立佐倉高校での活動

2月12日午後に、奥田治之会員が千葉県立佐倉高校で「銀河中心に巨大ブラックホールを追う」というタイトルで出前授業を行いました。あいにく日曜日に設定されていたので、受講した生徒は1,2年生の16名でした。先生も3名参加しています。

初めに、基礎知識として天文学で取り扱う慣用的な単位(距離、質量、エネルギー、角度、等級)を説明し、それらの幅の広い数値を表示するためには、指数表示、対数表示が使われることを紹介しました。

続いて、昔から謎めいた天体であった天の川銀河の構造が、電波、X線、赤外線などの観測によって次第に明らかにされてきたことを述べました。特に、宇宙塵の強い吸収によって不可視だった銀河中心の構造が、透過力の良い赤外線によって、星、宇宙塵(ダスト)の分布などの全体像が明らかになるとともに、超精密解像度の赤外線観測によって、中心核に星の公転運動が検出され、太陽質量の400万倍の質量集中が存在することが解かり、巨大ブラックホールの存在が予言されるまでに至ったことを述べました。

「上の図の説明:天の川銀河の模式図。渦巻き構造を持ち、横から見ると、どら焼きのような形をしている。中心には巨大ブラックホールがあると考えられてきた(加藤恒彦氏、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト、国立天文台、アルマ計画提供)Science Portalより転載させていただきました。」

最近になり、地球規模の電波干渉計によって、その真の大きさが確定されて、ブラックホールであることが証明されたことを紹介しました。さらに、2022年にはブラックホールの撮影に成功しています。

「史上初の天の川銀河中心のブラックホールの画像。これは、私たちが住む天の川銀河の中心にある巨大ブラックホール、いて座A*の姿を初めて捉えた画像です。国立天文台のページより

途中、これらの研究過程で利用された天体の回転運動の法則、ドップラー効果などを簡単な小道具で、デモ実験などを交えて説明しました。

授業はほぼ1時間程度で終わり、あとは生徒、先生からの質問を受け、議論をすることに費やしました。

東村山第三中学校での活動

2月9日午後4時から5時半過ぎまで、和田勝会員が東村山市の東村山第三中学校の自然探求部の活動に参加し、「ゾウリムシで遊ぼう、学ぼう」というタイトルで、実験授業を行いました。参加したのは部員のうちの約25名、3年生が1名と後は1,2年生でした。福島恵美教諭と入江翔太副顧問が助っ人として手伝ってくれました。

和田会員は下見と事前の相談のために、2月3日に同校を訪問していて、そのときにワークシートの束を預かりました。福島教諭が、単細胞生物と多細胞物の違い、ゾウリムシの繊毛や摂食などのついて予想と調べた結果を書き込むようにと、事前に部員に配布して回収したものでした。最後の項目として、ゾウリムシや生物全般について、聞いてみたいことという項目があり、書き込みがありました。

さてそんなことがあって当日、早めに赴き、溶液の準備などを行いました。今回は繊毛の動きを止めるために、塩化ニッケルを使いました。

実験の項目としては、単細胞生物であるゾウリムシの運動(遊泳)、摂食(食物の取り込みと食胞形成)、収縮胞による浸透圧調節の観察を選びました。

ゾウリムシをスライドグラスにとり、どのように遊泳しているかを観察してもらい、この動きが起こる理由を考えてもらいました。塩化ニッケル水溶液を加えると繊毛運動が停止することも観察しました。また、ヒトでは繊毛は気管上皮細胞にあることを説明しました。

10㎝程の2本の細いビニールチューブを両端と真ん中の3か所を輪ゴムで束ね、片方をずらすとチューブが曲がることを示し、繊毛の中にはこのようなチューブが9本あって、ずれることにより屈曲することを説明しました。筋肉による収縮との違いも説明しました。

次に、あらかじめ用意しておいた乾燥酵母菌をコンゴーレッドで染色したものを与え、ゾウリムシが食胞として取り込むことを観察してもらいました。下の写真のようになる予定でしたが、体の中が赤くなっているのがわかりましたが、酵母菌の数が少し多すぎたのであまりうまく観察できませんでした。写真は次の論文よりお借りしています。

案細胞生物のゾウリムシでは、食胞として取り込み、そこの消化酵素が融合して分解するのですが、ヒトでは消化管の内部で消化酵素によって分解して、それを小腸上皮細胞が取り込むことを説明しました。

次に収縮胞を観察してもらいました(下の画像は、慶応大学日吉キャンパス特色GPのページよりお借りしています)。単位時間当たりの収縮法の動きを数えてもらい、外部の塩濃度を濃いものにした時の回数と比較してもらいました。収縮法の動きは観察できたものの、回数の変化までは観察できない生徒がほとんどでした。生きものにとって、とても重要な浸透圧調節について説明しました。

最後に単細胞生物は、一つの細胞ですべてをこなすが、多細胞生物では分業していることを説明しました。

生徒たちはみな熱心で、それぞれの課題に取り組んでいました。事前に福島先生がワークシートを配り、生徒が予習をしているのが有効だったのだと思います。

ワークシートには質問事項があって、いくつもの質問が書き込まれていました。後で、質問に対する回答をまとめて送り、配布してもらいました。2,3の質問と回答を載せておきます。

質問:どうしていろいろな形の微生物が居るのか?
回答:微生物に限らず、生物はいろいろな形のものがいますよね。身の回りを見ても、スズメが居たり、イヌやネコがいたりします。生物はそのものが住んでいる環境に合うように進化してきました。その結果、形が変わったのです。微生物もその例外ではありません。

質問:どうして生物には個体差があるのか?
回答:この「どうして」という質問に答えるのはなかなか難しいです。特別な理由があるわけではないからです。「どのようにして」という質問の形に変えると、その仕組みを説明することは可能です。生物の形やはたらきは、その生物の持つ遺伝情報によって決まります。この遺伝情報に個体差があるのです。たとえばヒトの背の高さは複数の遺伝情報によって決まります。この複数の遺伝情報に個体差があるので、その組み合わせである実際の背の高さには、低い人から高い人までのばらつきが生まれるのです。

質問:どうしてゾウリムシはもっと大きい生物に進化せずに、あの小さな体にたどりついたのか?
回答:この「どうして」という質問に答えるのはなかなか難しいです、特別な理由があるわけではないからです。しいて言えば、ゾウリムシは現在生息している環境に適応して子孫を残しているので、体を大きくしたり、形を変えたりするような環境からの圧力(淘汰圧といいます)がかかっていないと思われます。そのために今の形でいつづけるのです。

小金井雑学大学での活動

12月4日午後に、大井みさほ会員が小金井市もえ木ホールで行われた小金井雑学大学で、実験を交えた講義を行いました。受講生は約35名、ほとんどが男性でした。

まず江戸川区子ども未来館で行った光の実験授業を紹介しました。子供達にはこんな実験で、光についてお話をしているという紹介です。その後、「光とはなにか」を、太陽、月から始まって、たき火、電気を使った電球の光、蛍光灯などを話しました。

共通するのは、それぞれに光源があって、そこから明るくする何かが発せられていることでしょうか。その明るくするものが「光」(正確には可視光線)なのです。現代物理学では、光は「波」の性質と「粒子」の性質を兼ね備えていることになっています。

次に、「レーザーについて」の話を、絵や図を使って行いました。レーザーは、ほぼ単一波長の電磁波のことで、レーザー光を発することができる「レーザーポインター」が市販されています。その後、このレーザーポインターを使って実験に入るのですが、場所と道具の関係で、講師が行う演示実験を主に見てもらう形とし、その後に、レーザーポインターなどの実験道具を回覧するなどにとどめました。

赤と緑のレーザーポインターを用意し、まず空気中では、レーザー光をとばすと、レーザービームの途中は見えないが、ビームが天井などに当たると、当たったところが見えることを確認しました。次に、水槽に水を入れ、水中にレーザービームをとばしても見えないが、カルピスを少し加えて水を白濁させると、水中でもレーザービームが見えるようになることを確認してもらいました。それでは空気中でもレーザービームが見えるようにするにはどうしたらよいでしょうか。ステージパフォーマンスで、よくレーザービームを使って、見えていますよね。

最後に回折格子板を配って、室内や窓の外なども観察してもらい、光が回折する様子を確認してもらいました。

参加者は通常の雑学大学の時とやや違って男性が多く、質問もたくさん出て、光についてのいろいろな話となり、いろいろと勉強させてもらったという講師の方の感想でした。

第14回八王子市中学校科学コンクール発表会に参加

12月3日に八王子教育センターで開催された、第14回八王子市中学校科学コンクールに、大井みさほ、奥田治之、西原 寛、町田武生会員が出席しました。このコンクールは主催:八王子市教育委員会、八王子市立中学校PTA連合会、後援:八王子市立中学校長会、協賛:オリンパス株式会社、NPO法人SSISS(科学技術振興のための教育改革支援計画)で実施されたものです。今年度も参加者数を制限して開催されました。また、YouTubeで登録をした人に公開されました。会場は教育センターの3階です。

35校の八王子市立中学校から自由研究作品が提出され、その中から先生たちによって、最優秀賞1件、優秀賞1件、奨励賞3件、佳作15件、来年度のためのポスターイラスト賞2件が選考され、入口に参加小作品と共に飾られています。

優秀賞と奨励賞のポスターです。

当日は、選ばれた5件の作品の研究発表会と、それぞれの賞の表彰式が行われました。下は開会前の来賓等の勢揃いの写真です。左から4人目がSSISS西原寛理事長です。

定刻の1時に八王子市教育委員会指導担当部長の開会の宣言とあいさつがあり、その後主催者である八王子市立中学校PTA連合会守屋香里会長のあいさつがありました。

続いてオリンパス株式会社執行役員田代芳夫さん、来賓の八王子市長石森孝志さんのあいさつがあり、研究発表会に移りました。

各賞の受賞者は以下の通りです。発表は奨励賞3件、優秀賞、最優秀賞の順で行われました。各発表の持ち時間はそれぞれ質疑応答を含めて15分です。スライドを使ったプレゼンは、それぞれ練習の成果を発揮して、わかりやすく上手にまとめていました。
・最優秀賞「食材に生えるカビについて ~カビの生えやすい食材・環境とは~」
    石川中学校3年 遠藤陽介
・優秀賞「葉っぱが水をはじく力の研究」
    川口中学校1年 谷口葉波
・奨励賞「ボールの飛距離と角度と重さの関係」
    いずみの森中学校2年 三浦拓巳
・奨励賞「もののたおれる仕組みについて」
    由木中学校1年 山本陽菜
・奨励賞「メントス・ガイザーの秘密に挑む」
    みなみ野中学校2年 石淵大地

優秀賞の発表の様子。

最優秀賞の発表の様子。

発表後の質疑応答の時間には、SSISSの会員から質問が多数ありました。中には難しい質問もあったようですが、今後の研究の発展への期待を込めたものだったと聞いています。

すべての発表が終了した後、プレゼンテーション賞の選考の審議が行われ、その後表彰式が行われました。最優秀賞、優秀賞、それと3件の奨励賞が、教育委員会西山豪一さんから授与されました。

プレゼンテーション賞としてSSISS賞は「ボールの飛距離と角度と重さの関係」いずみの森中学校2年を発表した三浦拓巳さんに贈られました。

最後に、受賞者5名を囲んで主催者・共催者との記念撮影。その時の写真です(写真は中P連からの提供です)。広角レンズなので両側が大きくなってしまっていますが補正できませんでした。受賞者の顔にぼかしを入れています。SSISSの理事長に加えて他の参加者も写っているので、ここに載せました。

なお、9月3日に行われた中P連との打合せの記事に既に書きましたが、5名の受賞者すべての方に副賞として小林憲正理事が昨年末に刊行した中公新書の「地球外生命ーアストロバイオロジーで探る生命の起源と未来」を贈りました。

東村山第一中学校での活動

大井みさほ、奥田治之、小林憲正、佐々田博之、西原寛、和田勝会員が、11月9日の午後に、東村山第一中学校で、2年生の生徒115名に対して実験授業を行いました。この活動は「東村山夢と希望プロジェクト」から依頼されて行う出前授業で、2年生の生徒全員が6つに分かれて、それぞれのテーマを午後の1コマの授業で行いました。上記会員のほかに、町田武生、進藤哲夫会員と髙田健司東京理科大学助教さんが助っ人として加わりました。

実際の活動前に、Zoomによるリモート会議を同校の校長先生と理科担当の先生を加えて2回行い、またメールのやり取りにより内容や準備の相談を行いました。

授業は昼休み後の午後13時30分から14時20分まででしたが、各会員ともに午前12時過ぎに学校に集まり、ひと休み後に各教室に分かれて準備を行いました。当日のテーマは以下の通りです。西原寛会員「金属の不思議-金の色を変えてみよう-」、和田勝会員「ゾウリムシで遊ぼう、学ぼう」、小林憲正会員「宇宙人は左きき?-生命の起源を右と左で考える-」、大井みさほ会員「光の進み方を調べてみよう」、奥田治之会員「日時計の仕組み」、佐々田博之会員「マイ分光器を作ろう」。各会員からの報告書と、町田武生会員撮影の写真と海老塚校長先生より頂いた写真で、当日の模様を再現してみます。

「金属の不思議-金の色を変えてみよう」
同じ物質でも原子の集まり方によって、色が変わることを、金を用いて観察することを授業内容としました。実験に入る前に、中学2年生で学習した「酸化」と「還元」の定義の拡張(高校レベル)を教えました。次に金の原子の集め方として、酸化された金(塩化金酸)の水溶液に還元剤を加えると、生じた金の原子が凝集する方法があることを教え、実験内容として、還元剤としてクエン酸ナトリウム(還元剤1)を用いると、凝集が途中で止まって直径10~100 nmの金のナノ粒子が生成すること(実験1)、水素化ホウ素ナトリウム(還元剤2)を用いると、それよりずっと大きな金のかたまりを生成すること(実験2)を説明しました。
4名ずつで班をつくり、5班で2つの実験を行いました。実験1では、ガスバーナーで加熱して酸化された金の水溶液に、還元剤1を加え、色の変化を観察しました。最終的に濃い赤色の溶液となることを理解しました。実験2では、固体の還元剤2に酸化された金の水溶液を加え、生じた黒い沈殿を取り出して擦り、金色に輝く固体であることを理解しました。2つの実験を通して、酸化された金の還元による金原子の集まり方によって、色が異なることを理解できたと思います。 最後に、実験で観察したことが何故雄なるのかを説明して、生徒の感想を聞いて、授業を終了しました。

「ゾウリムシで遊ぼう、学ぼう」
単細胞生物であるゾウリムシの、運動(遊泳)、摂食(食物の取り込みと食胞形成)を観察し、授業で学習した多細胞生物ヒトのそれぞれの機能と比較しながら説明しました。
最初はシャーレに取り分けたゾウリムシを肉眼で眺め、次にスライドグラスにゾウリムシを含む水を一滴、滴下し、カバーグラスをかけて観察してもらいました。ゾウリムシがどのように遊泳しているかを観察してもらい、どうしてこのような運動が起こるかを考えさせました。次に塩化ニッケル水溶液を加えると繊毛運動が停止することを観察しました。ヒトでは繊毛は気管上皮細胞にあって、吸入した異物を粘液が捕捉して繊毛運動によって口に戻して痰として吐き出すことを説明しました。また10㎝程の2本の細いビニールチューブを両端と真ん中の3か所を輪ゴムで束ね、片方をずらすとチューブが曲がることを示して、繊毛の中にもこのようなチューブが9本(真ん中には2本)あって、ずれることによって屈曲することを説明しました。ここにはエネルギーが必要で、塩化ニッケルはそれを阻害するために運動が停止することも付け加えました。
次に、あらかじめ用意しておいた乾燥酵母菌をコンゴーレッドで染色したものを与え、ゾウリムシが食胞として取り込むことを観察してもらいました。体の中が赤くなっている、という声が上がったので、観察できたのだろうと思います。食胞として取り込まれてその中で消化されることを説明し、ヒトではどのように消化しているかを説明しました。ヒトの場合は消化酵素を細胞外(消化管の中)へ分泌し、消化してアミノ酸やグルコースになったものを小腸の絨毛上皮細胞から取り込んでいることを説明しました。 最後に単細胞生物は、一つの細胞ですべてをこなすが、多細胞生物では分業していることを説明しました。50分と時間が短く、予定したか第3つのうち2つしかできず、また問いかけをして考えてもらうというというプロセスもほとんどできなかったのが残念でした。

「宇宙人は左きき?-生命の起源を右と左で考える-」
4名ずつ5班に分かれてもらい、分子模型セット、コガネムシ、左右円偏光フィルター、鏡を各班毎、パワーポイントのハンドアウトと質問の解答用紙を各生徒に配布しました。
まず生命とは何か、生命がどのように誕生したかについて、これまでどこまでわかっているか、その中で、アミノ酸のような生体分子が左右対称でないことが重要であること等を解説しました。
実習としては、分子模型を使って4つの結合手をもった炭素原子に4つの異なる原子(団)を結合させた場合、2種類の分子(鏡像異性体)が可能なことを確かめました。次に、コガネムシの翅を左右円偏光フィルターを通して観察すると異なった色に見えること、鏡に写した場合は結果が逆になることを確認してもらいました。これらのことから、地球生命が分子レベルで非対称であること、それが生命の本質に関係することを考えてもらいました。 後半は、地球外生命の存在の可能性について考えてもらいました。太陽系でも火星、エウロパなどの天体に生命が存在するかもしれないこと、その探査が行われていることを紹介しました。火星や金星には、かつて地球に似た環境があったが、現在はその環境が大きく変わってしまっったことなどから、地球外生命を考えることは、私たちの環境・文明を護っていくことにも通じることを理解してもらいました。

「光の進み方を調べてみよう」
光の進み方を調べるというテーマで、初めにレーザーについてその原理などを説明しました。
次に、レーザーポインターの光とふつうの光の進み方を示した後、生徒たちに空気中と、牛乳を入れて少し濁らせた水中をレーザーポインターから照射した光が、どのように進むか、どのように反射するかを観察してもらいました。照射する角度によって、光束は全反射することを確認してもらいました。
その上で、光ファイバーの中を光はどのように進んで、長い距離を端から端まで届くのかを考えてもらい、観察してもらいました。

「日時計の仕組み」
日時計の原理を説明し、代表的な日時計の型を示し、実際例の写真を見せながら、日時計の歴史などを紹介しました。その後、紙細工の日時計の制作を行ってもらいましたが、生徒全員がやや複雑な型を選んだため、制作に時間がかかりすぎて、完成には至りませんした。
そのため、室外での実地試験の余裕がなくなってしまい、持って行った自作の日時計で、実際の太陽光にあて、動作を確認して見せました。そのあと、日時計の持つ特性(季節による進み、遅れ)や、それと、地球の公転、自転との関係を説明しましたが、十分な時間が取れなくて、丁寧な説明はできませんでした。実験、工作を含む授業では時間の余裕が必要と思われました。

「マイ分光器を作ろう」
「マイ分光器を作ろう」という題目で1校時(45分)で簡易分光器を自作し、室内照明光と太陽光を観測しました。
時間が短いので、説明は5分程度で済ませ、製作を優先しました。作業をある程度済ませておいた型紙を折り曲げ、回折格子シート500 line/mmをはり付けてもらいました。早い生徒は15分で作り、30分で全員(19人)が完成しました。
分光器で照明(LED蛍光灯)、太陽(フラウンホーファー線)を観測しました。連続スペクトル、元素は固有の波長の線スペクトルを持つことを説明し、天文学で遠くの物質を同定できる理由を述べました。自作の装置で綺麗なスペクトルが観測できて、生徒達も楽しんでいたようです。

出前授業の終了後、SSISS会員と髙田さん、東村山市立中学校の理科の教諭が一堂に集まり、反省会と意見交換を行いました。様々な意見や要望がだされ、SSISSとは今後とも対応していくつもりです、と応えました。

八王子市立中学校PTA連合会との打ち合わせ

9月3日の午後1時30分から、八王子市立PTA連合会の役員の方々と、今年度の八王子市立中学校科学コンクールへの協力について打ち合わせを、ZoomによるWeb会議で行いました。PTA連合会からは、守屋会長をはじめとして黒澤、岩崎、廣田、久保さんの5名の方々が、SSISSからは西原寛理事長をはじめとして小林憲正、佐々田博之、町田武生、和田勝の各理事、大井みさほ、奥田治之の各監事、有山正孝参与の8名が参加しました。

八王子市立中学校科学コンクールは、八王子市教育委員会と八王子市中学校PTA連合会の主催、中学校長会の後援で行われ、今年は第14回になります。SSISSはこれまでと同様、オリンパス株式会社と共にこのコンクールに協賛をしています。すでに昨年に募集したイラスト作品の中から選んで作成された、次のような素敵なポスターを各中学校に配布してあり、応募があった多数の作品から、優秀な作品を選考する作業が現在、行われているそうです。

会議では、岩崎さんの巧みな進行によって活発な意見交換がありました。SSISSはこの科学コンクールが今のような形になったきっかけを作りました(活動案内10周年記念号11ページ)。第3回までは優秀作品の表彰式があり、著名な科学者の講演会を行っていました。ノーベル化学賞受賞者の白川秀樹筑波大学名誉教授も講演者の一人でした。平成24年(2012)の第4回の時に、この講演をSSISSにお願いできないかということで大木道則理事長(当時)と大井みさほ理事(当時)が連合会会長などと打合せを行いました。その席で、講演よりはむしろ優秀作品に選ばれた生徒がその内容を発表する会にした方がよいのではないかと提案をて、そのような形になりました。そしてSSISSは作品の選考に協力することになったのです。初期の頃にはSSISSだけでなくオリンパス工業の方なども、すべての応募作品に目を通し、各賞選考の過程にかかわりました。また、これと並行して八王子のいくつかの中学校に出前授業で赴いたことなどが話題に上りました。現在、すでに書いたように応募があった作品の中から優秀賞を選考する作業が進行中とのことですが、なるべく発表の内容がわかるアブストラクトのようなものを発表会の前にほしいと要望しました。その他、八王子市でのSSISSの支援の在り方など、いろいろなことについて意見交換がありました。

12月3日(土)に開催される優秀作品の発表会と表彰式には、少なくとも西原寛理事長、大井みさほ監事、町田武生理事が参加することが確認され、表彰式では表彰状と副賞を理事長が授与します。副賞としては、小林憲正理事が昨年末に刊行した中公新書の「地球外生命ーアストロバイオロジーで探る生命の起源と未来」をすべての受賞者に差し上げるつもりであることを伝えました。

東村山市第一中学校との打ち合わせ

8月24日の午後1時30分から、11月9日に予定されている東村山第一中学校での出前授業について、授業の内容や準備等についての打ち合わせをZoomによるWeb会議で行いました。SSISSからは西原寛理事長をはじめとして小林憲正、佐々田博之、町田武生、和田勝の各理事、大井みさほ、奥田治之の各監事、西原研究室の高田さんの8名が、東村山第一中学校からは校長先生である海老塚俊一さんと理科教員の丸山さん、それに「東村山夢と希望プロジェクト」のコーディネーター富摩照夫さんが参加しました。実は今回が2回目の打ち合わせで、8月2日に簡単な顔合わせ兼打合せがあり、今回は理科の教員を入れてもう少し突っ込んだ打ち合わせになりました。

改めて各自が自己紹介をして打ち合わせに入りました。今回は東村山第一中学校の2年生4クラスの生徒さんに対して、現在のところ6名の会員が出前授業を行う予定です。この日は、授業を行う予定の西原、和田、大井、佐々田、奥田、小林会員が、実験を行うために必要な設備のある教室、学校側で用意してほしい備品や器具などの要望を述べ、中学校側はそれぞれの要望の応じた教室を用意できること、備品なども応じられるという回答でした。

細かい手順や必要な備品、消耗品などを、SSISS側で書き出して送るということを約束して、打ち合わせを終わりました。

江戸川子ども未来館での活動(2)

和田勝会員が、8月10日の午後1時から4時までの時間で、江戸川区子ども未来館の夏休み応援プロジェクトの一つとして、「生き物は細胞でできている」というテーマで、小学校5,6年の児童16名に実験授業を行いました。今回は、少し広い実験室に余裕をもって机が配置され、顕微鏡とスライドグラスなどの必要なものが机の上に準備されていました。子ども未来館の前川啓二さんとボランティアの3名の方が手伝ってくれました。下に掲載して写真はすべて、前川さんの撮影です。

最初に顕微鏡の操作法の説明を少し詳しく行いました、持参したヘマトキシリン・エオシン染色をしてあるプレパラートを使って、ピントの合わせ方、メカニカルステージの動かし方、倍率の変え方などの基本操作に慣れてもらいました。

ついで単細胞生物のゾウリムシの観察を行いました。どのように動くか観察するよう促しました。少なくとも、グルグル回りながら進んでいくことはわかってもらえたと思います。一応、繊毛の話はしましたが、今回は、時間配分を考えてあまり詳しい観察は行いませんでした。ちょっと反省。下の画像はここからお借りしています。

その後、多細胞生物の植物の例として、タマネギ鱗茎葉の表皮細胞を酢酸カーミンで染色して観察しました。染色により1つ1つの細胞に核がきれいに見えました。

次にトマトの表皮細胞を観察し、細胞の形、大きさ、色、配列の仕方がlタマネギの場合とどのように違うか、考えるように促しました。

植物の細胞はゾウリムシのように動かないので、植物細胞も生きていることを実感してもらうために、オオカナダモの裏側の細胞で葉緑体が動くことを観察してもらいました。 葉緑体は観察できるのですが、動きはゆっくりしていました。条件設定が悪かったのだと思います。反省点です。原形質流動ということを説明しました。

動物細胞の例として、自分の頬の内側の表皮細胞を綿棒でこすり取り、染色して観察しました。すべての人がうまく観察することができて、ホッとしました。

ここで植物細胞と動物細胞の違いを説明し、最後に、細胞分裂により数を増やし成長することを強調しました。

生徒はみな熱心で、反応も良かったような気がします。

終わった後に各自が書いて提出する発見カードには、わかった度とわくわく度を書くのですが、どちらも「とっても」が多く、おおむね好評だったようです。書かれていた書き込みのいくつかを紹介します。
「けんび鏡で知らないことを探すのがとても楽しかったです。来年も来たいです。」「細胞という言葉は知っていたけど、形はわからなかったから、わかってすっきりしたきもちになった。」「ゾウリムシなんてはじめてしった。」「細胞のことがよくわかりました。初めてけんび鏡でかんさつして、わくわくしたし、楽しかったです。」

江戸川子ども未来館での活動(1)

大井みさほ会員が、8月9日の午前に、江戸川区子ども未来館で毎年実施している「子どもアカデミー夏休みプログラム」の中の一コマとして、「光のすすみかた(光で遊んで、光を学ぼう)」というタイトルで実験授業を行いました。参加した児童は小学校3年から6年の児童20名でした。子ども未来館の方とボランティア方2名が手伝ってくれました。

最初に「光とは何か」を、太陽、月から始まって、たき火の光、電気を使った電球の光、蛍光灯の光などを例にして説明しました。次に、「レーザーについて」の説明を、絵や図を使っておこない、実験に入りました。

赤と緑のレーザーポインターを各テーブルに1本ずつ用意しました。まず空気中では、レーザー光をとばすと、レーザービームの途中は見えないけれど、ビームが天井などに当たると、当たったところにスポットが見えることを確認しました。次に、水槽に水を入れ、水中にレーザービームをとばしても見えないけれど、カルピスを少し加えて水を白濁させると、水中でもレーザービームが見えるようになることを確認しました。

白濁した水槽の水に赤と緑のレーザーポインターの光をあて、いろいろと角度を変えてみてもらい、入射、屈折、水の表面による全反射などを観察してもらいました。

次にCD板を配り、照明光を当てると虹色が見えることを確かめてもらい、回折格子板を配って室内や、窓の外なども観察してもらいました。さらに光ファイバーについて光は全反射で進むことを説明し、実際に光ファイバーで光を送り、観察をしました。

光の実験はきれいなので、子どもたちも興味を持ってくれるようです。