riji_koho のすべての投稿

2021年度総会開催

年度の初めのあいさつ文を書こうと思っていて、時が過ぎて行ってしまいました。新年度になって、当然のことながら総会の案内を送付をしました。それに基づいて5月29日(土)午後2時からZoomによる総会を開催しました。

幸いなことに、返送されてきた議決権行使書とZoom会議出席者で、総会成立の要件が満たされ、総会はスムースに進行して終了しました。総会議事録はここにあります。

そこで審議された、2020年度の活動報告書並びに決算関係の文書、2021年度の活動計画書と予算の文書は、該当ページにアップします。また、今年度は、前役員の任期が終わり、新たの役員の選出が行われました。これに関しても該当ページにアップしますのでそちらをご覧ください。

東村山市野火止小学校での活動

有山正孝、大井みさほ、奥田治之、和田勝会員が、11月17日の午前中に、東村山市野火止小学校で、6年生の児童102名に対して実験授業を行いました。この活動は「東村山夢と希望プロジェクト」から依頼されて行う最初の出前授業で、6年生の児童全員が4つに分かれて、4つのテーマを2つずつ選んで3,4時限の45分授業時間に行いました。校長先生、副校長先生をはじめとして、多数の教職員の方々に、積極的に受け入れ準備と当日の実施に気を配っていただきました。児童への授業の宣伝として、こんな物を作成して掲示していただきました。

写真にあるように、それぞれの授業のタイトルは、有山会員が「電流と磁石-原理と応用-」、大井会員が「光で遊ぶ、レーザー」、奥田会員が「望遠鏡で見ると物がなぜ大きく見えるか」、和田会員が「生き物は細胞という単位でできている」でした。

9時に学校に集合し、各自が割り当てられた会場(体育館や理科実験室など)で準備を行い、 10時25分より体育館で開講式が行われました。校長先生のあいさつの後、講師の先生方(つまり我々)が紹介され、教育委員会関係の方のあいさつなどがあった後、各会場に分かれて授業が行われました。 各会場の様子を写した写真を野火止小学校から提供いただいたので、それを交えて実験授業の様子を簡単に書いておきます。

〇有山正孝会員は、「電流と磁石-原理と応用-」ということで、最初に電流と磁石の相互作用について説明しながら演示実験を行いました。電線に電流を流すと磁力が発生して電線が磁石になります。

これらのことを理解したうえで、 1人ずつクリップモーターを作ることにします。エナメル線をコイル状に巻いたものや電池ボックスと基盤になる厚紙は、有山先生が 用意しておいてくださいました。 ゼムクリップで 軸受を作り、 コイルから出た直線部分のエナメルをはがします(一方は全部、一方は上半分だけ、ここがポイント)。

基盤に電池ボックス、軸受け、永久磁石を配置し、ミノムシクリップが両端についた被覆線で配線して、軸受けにモーターとなるコイルを載せます。ちょっと動かしてやると、くるくると回りだします。成功です!電流と磁石の関係が分かったかな?


〇 大井みさほ会員は、「光で遊ぶ、レーザー」ということで、赤、緑のレーザーポインターを使って、光の進み方を観察しました。

レーザー光はなぜ収束したまっすぐな光なのか、その原理を図を使って説明しました。最後に、偏光板を使って自然光と蛍光灯の光を比較しました。

〇奥田治之会員は、「望遠鏡で見ると物がなぜ大きく見えるか」ということで、 最初にピンホールカメラの原理、レンズの働き、焦点距離の説明をスライドを使って行いました。

奥田先生自作の装置とレーザー光による光の進み方を使った演示実験、下の写真の後ろ側に少し見えているのがレンズです。これらを使って光の屈折を調節でき、焦点距離などを実感できます。

実物の望遠鏡での体験では、隣の中学校の時計がはっきり見えるのに驚きました。

〇和田勝会員は、「生き物は細胞という単位でできている」ということで、単細胞生物ゾウリムシとタマネギ輪茎葉の表皮細胞を顕微鏡で観察し、細胞を意識させることを目指しました。

最初に、拡大するとはどういうことかを実感するために、実体顕微鏡を使って新聞の折り込み広告のカラー写真を見てもらいました。肉や野菜の写真を拡大して見ると、細かい色の点が見えます。カラー写真が、シアン(C)、マゼンタ(M)、黄色(Y)と黒(K)で構成されていることが分かります(CYMK)。

持参したゾウリムシを配り、観察してもらいます。最初は自由に観察してもらい、0.2mmほどの単細胞生物が動き回ることを楽しんで観てもらいました。動きを止めるために、メチルセルローズを加えました。最後にタマネギ輪茎葉の表皮細胞層を引きはがして配り、酢酸カーミンで染色して観察してもらいました。細胞がびっちりと並んでいるのが面白かったようです。

45分という枠の中での説明や演示実験、実験だったが、児童たちはそれぞれの実験を楽しんだようで、副校長さんからのメールに「放課後の職員室においても、授業の素晴らしさ、子供たちの喜びの声など様々なことを遅くまで話題にしていた。」とありました。 また後日、送られてきた児童の感想文には、「おもしろかった」、さらには「もっと知りたいと思った」、「調べてみようと思った」、などの記述があり、科学っておもしろいというメッセージが伝わったのだと思いました。

市川学園市川高等学校での活動

新型コロナウイルス感染拡大のために、SSISSの活動も大きな影響を受けました。今年度に入り総会がリモートになり、支援の依頼もなくなりました。ようやく8月に入って、江戸川子ども未来館と東京雑学大学での活動が行われました(Web掲載済み)。例年なら、7月頃に市川学園高等学校の生徒のポスターによる研究計画の発表があり、これに対して指導助言の要請があるのですが。今年は依頼がありませんでした。

そんな折に、市川学園の担当者から、今年度は上記の理由で予備実験を行って研究経計画を立て、ポスター形式で発表することができなくなった、その代りに、実験を行わずに研究の背景や予定する実験についてまとめた計画書を提出させたので、それに対してアドバイスをお願いしたいと電話がありました。この依頼は、例年、ポスター発表会で指導助言を行っている、細矢治夫、町田武生、和田勝会員に来ました。

以下は、和田が代表して活動について書き留めておきます。引き受ける旨を電話口で返答すると、8月4日付で、生物分野の64テーマの研究計画書とコメントシート、生物分野以外も含むすべての計画書とコメントシートが入ったCD-ROMが送られてきました。計画書を読んで、気が付いたことなどのアドバイスをコメントシートに記入して8月末日までに返送してほしいとのことでした。

生物分野は、64テーマの個人あるいはグループによる研究計画書で、 4冊に分かれて綴じられていました。結構のボリュームです。 計画書には、氏名、タイトルのもとに、動機、背景、目的、実験計画と結果の予測、参考文献の項目があり、なぜタイトルにある研究を行おうとしたかの動機や、研究の背景、目的が記載されています。インターネットの時代を反映して、調べるにあたって参照したWebページが参考文献に挙げられていました。予備実験をできない中、いろいろと調べて書き上げたことがうかがえます。それゆえか、実験計画は十分に練られてなく、計画となっていないものも散見されました。仮説を立て、予備実験をして実験計画を練るという過程が、この時期にはできなかったので仕方がないのかもしれません。そんな点を念頭に、実験のやり方などの具体的な点をアドバイスしました。

この実験計画書をリバイスして、 9月から計画に従って実験が行われているはずです。実りある結果が出ていることを祈っています。

東京雑学大学での活動

和田勝会員が、8月27日の午後に、西東京市のコール田無で、東京雑学大学の学生さんに 「ウグイスってなにもの? 知られざる私生活をのぞく」というタイトルで 講義を行いました。 2時から4時までで途中に10分の休憩を挟んでの講義でした。30名ほどの学生さんが出席してくれました。

コール田無は、西武新宿線田無駅から徒歩7分ほどのところにあります。線路に沿った道を新宿方面に戻って、大きな道に突き当ったら左に曲がって、ちょっと坂道を上がると正面にコール田無の建物が見えてきます。

画像は上記の西東京市のページより拝借

この交差点の名前は、総持寺・田無神社前といいます。左を向くと確かにお寺が見えます。総持寺という名はどこかで聞いたような、そうだ横浜市鶴見区にある曹洞宗の大本山總持寺と同じ名前ではないですか。交差点の表示と違って寺の案内板には總持寺とありました。こちらは真言宗のお寺さんのようです。門が閉まっていて、中の様子はわかりませんでした。

で、交差点を渡って、コール田無の入り口を求めて右へ曲がると建物に沿ってスロープがあり入口へつながっているようです。でもその右側には鳥居が立っていて、田無神社とあります。コール田無は田無神社と隣接しているんですね。少し時間があったので、神社の中をのぞいてみることにしました。鳥居をくぐって階段を上ると、境内が開けます。

Wikipediaより

階段を上がると、参道が奥の方へ続いていて、結構広い境内のようです。二つ目の鳥居には開かれた神社と書かれた幟があります。後で調べたら、四六時中境内に入れる神社なのだそうです。それほど長くはない参道の両側には大きな木がそびえていて、雰囲気を作っています。

奥まで進んだ正面に拝殿がありました。注連縄をかけた屋根の下の横柱(虹梁というのでしょうか)の上には立派な龍の彫り物が施されています。

四隅にも龍の彫り物。

拝殿の左手には大きな銀杏の木があります。ご神木だそうです。

それ以外にも銀杏の木が何本かあり、それぞれに黒龍などと書かれた札がかかっています。また境内には、小さな社がたくさんあり、龍の彫像があります。どうやらここは龍神をまつる神社のようです。そういえば、参道の途中に龍神池(小さいけれど)があって、メダカが泳いでいました。

あちこち探検していたら、講義開始の30分前になってしまいました。急いで来た道を戻って、コール田無に向かいました。入口(実は裏口でした、本当の入り口は反対側にあったのです)から中へ入ると、警備員の方がいて東京雑学大学の会場は2階だと教えてくれました。急いで2階に上がり、会場へ。会場にはもうだいぶ学生さんが座っていて(距離をとって)、プロジェクターが用意されています。急いで準備しました。ところがパソコンの信号がうまくプロジェクターに送られないのです。すったもんだの末、別のプロジェクターに変えてもらってようやく用意ができました。ギリギリセーフでした。

紹介された後、講義が始まりました。そうそう、今回は、フェースガードを装着して 講義する羽目に。なんか邪魔だなーと思いながら始めました。時々フェースガードにマイクをぶつけました。


講義の内容は、これまでもこのWebの活動報告で書いてきたウグイスの話です。今回は大学の講義らしく、学生さんたちには、あらかじめハンドアウトとして、スライド枚数を減らして1ページ6コマで合計84コマを印刷したものを渡してあります。 分かり易く、時々は脱線しながらと、心がけて講義しました。終わった後に、いくつか質問をもらったので、まあまあ分かってもらえたかな、と思いました。

帰り際に、コール田無の警備員の方に、この建物のある敷地は田無神社だったのですか、と聞いたら、イヤそんなことはないという返事でした。でも参道の横に建っているのですから、気になります。道を挟んだ向かいの総持寺は?気になっていろいろと調べてみました。SSISSの活動に関係ないのですが、ちょっと補足します、ゴメンナサイ。

総持寺・田無神社前の交差点を右に折れましたが、この道は青梅街道です。青梅街道は新宿追分から青梅を経由して山梨県甲府市に至る街道ですが、江戸時代初期に、江戸城の改築に必要な漆喰の原料となる石灰を青梅から運ぶために整備されました。田無は青梅と江戸のちょうど中間にあるので、馬の乗り換え(継馬)等のための宿場町として繁栄しました。GoogleMapでコール田無あたりの航空写真を見てみると下のようになります。コール田無は青梅街道という文字の左にある青いマークです。

調布田無線という、地図上の中央やや左を南北に走る都道で左右に分断されていますが、左側の上に凸な三角形の敷地の總持寺と、右側の三角お結び型の田無神社の敷地は、なんかつながっていたように思えます。

それで總持寺を調べてみると、創建は江戸時代初め、別の地に西光寺として建てられたものが、慶安年間(1648-51)に現在地に移転したと伝えられている、とありました。さらに、この寺は江戸時代には田無神社(当時は尉殿権現社と呼ばれていた)の別当寺だとありました。当時は僧侶の方が神官よりも一段上でした。いずれにしても、両社が一体であったことがうかがえます。現在の總持寺と名称が変わったのは、明治の神仏分離令によって3つの寺が合併した結果です。

一方の田無神社、こちらの方がずっと古く創建は鎌倉時代後期とされています。こちらも創建された場所はもっと北で、名前も上に書いた尉殿権現社で、龍神が祭神でした。龍神は水の神様ですから、最も生活に密着した自然信仰ですね。その後、分祀したり遷座したりして最終的に今の場所に落ち着くのが江戸時代の初め(1670)でした。上に述べた青梅街道の整備に伴って宿場町を形成するために、幕府の命により住民が北の方から移り住み、おそらくそれに伴って神社も村のはずれに遷座したのでしょう。明治になって神仏分離令によって 寺と神社が分けられるまでは、神社の神号額はこのようなものが掲げられていました。現在は市指定文化財として、総持寺に保管されています。田無神社の由緒や宿場町のことなどは、田無神社のWebページに詳しく書かれています。

寺と神社を結ぶ人物が2人いや4人います。名主の下田半兵衛富永、富宅(とみいえ)親子と、医者の賀陽(かや)玄雪、玄順親子です。どちらも江戸時代末の同時代人です。この辺りは天領で代官がおり、そのもとで名主が村政を行っていました。田無村の名主として、江戸時代末に善政を敷いたのは下田半兵衛親子でした。
「富永は飢饉に備えた救済用穀物を貯蔵する「稗倉」を建て、古くなった稗は貧しい人々や病人に分け与え、富宅は自分の所有する畑を「養老畑」として提供し、その収穫物から得た金銭を村の70歳以上の老人に送りました。
また、二人の半兵衛は田無の地の宗教施設にも多大な影響を残しています。富永は現在の総持寺である西光寺を再建し、亡くなった後に自ら復興した西光寺に葬られました。富宅は自ら出資し、嶋村俊表を招聘し田無神社本殿を建立しました。 」田無神社のページより
そうです。西光寺の本堂の建て替えを、住職とともに推進したのが富永でした。子の富宅は、尉殿権現社の本殿の 建築を神田の宮大工と彫り物師に依頼に行くのです。

拝殿の彫刻については、上の方に写真で紹介しましたが、拝殿内の本殿の彫刻はさらに見事なものです。これらは江戸時代後期の彫り物大工の嶋村俊表の手によるものです。本殿は年に一度の公開の時しか見ることができませんが、田無神社のホームページに多数の写真とともに詳しく載っています。息をのむような見事な作品です。

田無神社のページより拝借
田無神社のページより拝借

東京芸術大学学長だった宮田亮平さんも、案内板の中でこう書いています。 「田無神社本殿は入母屋造り銅板葺きで、唐破風、千鳥派風をあしらった総欅造、そして組物は三手先という、江戸期を代表する神社様式の社殿です。とりわけ彫刻装飾が美しく、周囲の扉、欄干、柱、長押など隅々にまで大胆で繊細な彫り物がほどこされています。まさに江戸期の粋を集めた木造建造物といえるでしょう。この本殿は江戸神田の名工嶋村俊表によって造られたものです。嶋村家は当時、「江戸彫物御三家」の一つで、石川家、後藤家とともに隆盛を誇っていた名門でした。俊表はほかに川越の氷川神社(県指定重要文化財)や成田山新勝寺釈迦堂(国指定重要文化財)などの名作を残しましたが、この田無神社の本殿には円熟期の俊表の技量が見事に発揮されています。まことに嶋村俊表の代表作と申せましょう。」本殿・拝殿は東京都指定有形文化財です。全体像は次の写真をご覧ください。

田無神社のブログのページより拝借

賀陽玄雪、玄順親子についてですが、玄雪は文政6年(1823)に備前(岡山県)の池田藩侍医のときに、妻子を残して医学修行のために諸国修行の途中、田無に立ち寄り、名主下田半兵衛 宅に宿泊しました。その際に急病人が出ましたが、玄雪が治療にあたったところたちまち治癒したそうです。 当時、田無周辺には医者がいませんでした。困っていた富永は、玄雪の医術の腕と人柄を見込んで、田無の地での開業を頼みました。玄雪は備前から家族を呼び寄せ、田無に居住することになり、名主譜代の待遇で村医となりました。富永は必要な費用を寄付して玄雪の医療活動を助けました。村内だけでなく、周辺の農村からも多くの病人がやってきたそうです。
子の玄順は、父から医術を学ぶとともに江戸昌平坂学問所に入学して学び、長崎にも留学して西洋医術を治めました。 昌平坂で学んだので、神田の嶋村俊表を富宅に紹介したのかもしれませんね。明治元年には自宅に手習い所を開設して、農村子女の教育に当たりました。遠く八王子から通ってくる子女もいたそうです。
境内の案内板には、史跡賀陽玄節邸跡として、上に書いたようなことが記されていて、田無周辺の医療と教育の発祥地とあり、(現コール田無)と書かれてるじゃありませんか。やっぱりコール田無は、田無神社や總持寺と関係あるんですね。
明治になって神仏分離令の後は、賀陽玄順が田無神社の初代の宮司となり、その後、代々受け継がれています。

田無神社に戻って、もう少し境内のことを。田無神社の祭神は龍神だと書きましたが、現在では大国主命をはじめたくさんの祭神が合祀されています。でも、大本は龍のようで、境内には、上にも書きましたが、拝殿左手にある樹齢170年の銀杏が金龍で、その他、参道の右側に白龍、黒龍、青龍、赤龍の銀杏の神木があります。

そんでもって、龍の彫像もあちこちに。本殿に金龍があり、その他の4つの龍は、それぞれの方位に合わせて境内に配置されています。当日撮影したのは青龍のみでした。

4つの龍はまとめてこんな感じ。ここからお借りしています。

これ以外にも、あちこちに龍をモチーフとした彫像があります。そうそう、二の鳥居をくぐって少し行った左手にあるり龍神池についても触れておかねばなりません。
田無の地は水の便が悪く、宿場として村ができた最初のうちは、北へ1キロほど行ったところまで水を汲みに行っていたそうです。玉川上水ができて(1653)江戸に水が送られるようになると、そこから分水をして田無に送る田無用水の案が生まれ、幕府に願い出ましたが、なかなか許可が下りず、ようやっと元禄9年(1696)に許可が下り、現在の小平市にある喜平橋あたりで分水し、もっぱら田無宿の飲み水用として用水が引かれました。現在では、小平市にはまだ水が流れる田無用水が残っていますが、その先は暗渠となってしまいました(ここに田無用水に関して写真と地図入りで詳しく載っています、1と2あり)。

分水点からほぼ東北東にまっすぐ進んだ田無用水は、青梅街道の橋場交差点で二つに分岐し、ちょうど青梅街道を南北から挟むように並行して進みます。青梅街道沿いに並んだ家々に飲み水を供給していたことが読み取れます。北側の水路は、總持寺の南側塀際を通り道路を渡って少し北へ進み、東に折れて田無神社の境内を横切り、少し進んでから南下しています。下の地図の青い線が田無用水です。この地図は「川のプロムナード」というページの上記リンク先からお借りして手を加えました。とても丁寧な手の込んだページです。ご覧ください。作者に感謝します。

現在では、上の地図に載っている部分の田無用水は、すべて暗渠となっています。二本の暗渠になったところは、北側が「やすらぎのこみち」、南側が「ふれあいのこみち」と名前の付いた遊歩道になっています。 地図(特に航空写真)を見ると 日本の遊歩道が用水の跡であることがよくわかります。 上の地図のリンクをクリックして拡大して眺めてください(田無用水再生プロジェクトのページより)。

上に書いたように、田無用水は田無神社の境内を横切って流れていました。その名残として参道を横切って神橋が架けられています。

田無神社のビオトープのページより

田無用水は、往時には住民に飲み水、煮炊き用の水を供給するともに、川べりの景観と生態系をも提供していたでしょう。 田無用水を復活することは難しいけれど、水辺を再現することは大きな意味があると考えた田無神社の宮司が、NPO法人に相談して、用水のあった場所にビオトープを作ろうと計画して、できあがったのが龍神池です。2018年のことでした。講義の前にこの池を見たときは、神社の境内によくある昔からの池だと思ったのですが、知らべてみると新しいんですね。でも単なる池ではなく、田んぼの土や移植した植物、メダカなどで、多様な生態系を作ろうとしていることがうかがえます。

ここからお借りしています

これでやっと生物っぽい話題に戻りました。もう終わりにします。でも、土に根付いた歴史って面白いですね。

江戸川区子ども未来館での活動(3)

大井みさほ会員が、8月13日の午後に、江戸川区子ども未来館子どもアカデミー夏休みプログラムの一つとして「光の進み方」というテーマで、小学校児童3年生から6年生 12名に実験授業を行いました。

初めにレーザーの原理についてのイラスト資料を配り、かなり詳しく説明をしました。 レーザーという言葉はよく聞く言葉になっていますが、 light amplification of stimulated emission of radiation(誘導放出による光増幅放射)という言葉の頭文字をとったLASERを発音しているのだと、すぐに言える人は少ないのではないでしょうか。 レーザーとは、もともとは単色性にすぐれ、干渉性のよい電磁波を発振する原理あるいはそれを利用した装置を指す言葉で、そこから発生するのがレーザー光です。
レーザーは、大型の工作機械から医療機器など、様々な分野で使われていますが、身近なものはレーザーポインターではないでしょうか。

そこで、緑と赤のレーザーポインターを使って、大気中、水中およびプラスチック角棒と光ファイバー中での光の進み方を観察しました。さらに水と空気の境界での屈折、反射を観察しました。このあたりの様子はすでに、活動報告に書いていますので、そちらをご覧ください。

光ファイバーを使って、光通信の原理を実験で確かめました。また、持参したキャラメルの空き箱などと、回折格子片を使って、分光計を製作し、蛍光灯の光などの観察をしました。空き箱利用で工作時間が昨年より大幅に短縮でき、その分、観察時間を増やことができました。

今回の実験授業には、東村山市教育委員会委員の方と小学校校長先生が見学されました。今後予定している、東村山市での活動につながるものだと思います。

江戸川区子ども未来館での活動(2)

和田勝会員が、8月12日の午後に、江戸川区子ども未来館子どもアカデミー夏休みプログラムの一つとして「生き物は細胞でできている」というテーマで、小学校児童4年生から6年生 16名に実験授業を行いました。 2時間では時間が足りずにあわただしいので、今年も午後1時から4時まで、3時間の枠を取ってもらいました。

受講者が実際に手を動かす時間を長くとるよう、今回は説明をなるべく少なくしました。ざっと顕微鏡の操作法を説明し、単細胞生物のゾウリムシの観察を行ってもらいました。サイズが比較的大きいので、低倍で観察でき、動き回るので興味を引くからです。どのように動くか、よく観察するよう促しました。
次のYouTubeのURLをクリックしてみてください。投稿された興味深い動画を別画面で見ることができます。
https://youtu.be/dpQ8ZqXCEkw

単細胞生物と多細胞生物の説明をして、多細胞生物の植物の例として、タマネギ鱗茎葉の表皮細胞を染色せずに観察しました。それぞれ、自分でカッターナイフを使って、一片の鱗茎葉の内側の表皮に切り込みを入れて、ピンセットでなるべく薄く剥ぎ取ります。

次いで酢酸カーミンで染色して観察しました。染色により1つ1つの細胞に核がきれいに見えます。

次にミニトマト果実の表皮細胞を観察しました。タマネギの場合と比べて、細胞の形、大きさ、色、配列の仕方の違いを考えるように促しました。植物細胞には、細胞壁があるという話も少ししました。

タマネギに戻って、鱗茎葉の表と裏、あるいは場所によって違いもあるかどうか、観察してみたらと言いましたが、食いついた人はいませんでした、残念。

動物細胞の例として。自分の頬の内側の表皮細胞を綿棒でこすり取り、染色して観察しました。今回はすべての人がうまく観察することができました。

ここで植物細胞と動物細胞の違いを説明しました。 最後にネギの根端組織の細胞を観察してもらったのですが、あまりうまくいきませんでした。そこで、細胞分裂の動画を見てもらい、多細胞生物は細胞分裂により細胞の数を増やして成長するんだよと、強調しました。

今回は、スライドをあまり使わずに、白板に字を書いて説明するようにしました。また、手際よく進められたので、時間内に予定した項目を終えることができました。回収された発見カードを見ると、わかった度もわくわく度も、「とっても!」が多かったので「よかった!」と思いましした。

江戸川区子ども未来館での活動(1)

新型コロナの影響で、今年に入って1月の活動の後、予定していたいくつかの活動がキャンセルになりました。8月に入って少しずつ自粛が緩和され、今年度の第1回目の活動が行われました。

先陣を切ったのは小林憲正会員で、8月8日の午後に、江戸川区子ども未来館子どもアカデミー夏休みプログラムの一つとして、「宇宙人は左きき?右きき?」という魅力的なテーマで、小学校児童16名に実験授業が行われました。

前半は、パワーポイントのスライドを使って宇宙生物学(Astrobiology)の大きなテーマについてのお話です。宇宙生物学の3つの大きなテーマは、
 1)私たち(地球人)はどのようにしてできたの?
 2)地球以外にも生物はいるの?
 3)わたしたちは、この先、どうなるの?
です。
1)のお話で、生命と非生命の違いとは?という問いかけから始まります。 生物とは生命を有するものですが、そもそも生命とは何でしょうか。 下の写真を見てください。地球上の生物の写真が並んでいます。

次の写真は石ころです。いろいろな色や形がありますが、生物ではないのはすぐにわかりますよね。

https://bulan.co/swings/stone-cushion/より

石ころの次の写真は、二足歩行のロボット「ロビ2」 の写真です( https://prtimes.jp/ より )。人間に近い形をしていて、コミュニケーションもできるようですが、生物ではないですよね。

生命とはなにかと定義するのは、なかなか難しいのですが、ここでは、細胞でできている、ものを取り込んで変化させる(すなわち代謝をする)、子孫を残す(すなわち繁殖する)ものであると定義をしておきましょう。

上の写真にあるような、地球上のいろいろな生物はどのように誕生したのでしょうか。ダーウィンの進化論、ミラーによる放電の実験、オパーリンによるコアセルベートの実験などを示して、地球生命がどのように誕生し、進化してきたのかを説明しました。

それでは、地球以外に生命が存在するでしょうか。質問を投げかけました。「いる」と答えた人が何人かいました。実際はどうでしょう。 今のところ、太陽系の惑星の中に生命の存在の証拠は見つかっていないが、 次のように考えられています。「もっとも生命存在の可能性が高いとされる火星においては、1975年から1976年にかけて行われたバイキング計画において生命探査が行われたが、生命の痕跡を検出することはできなかった。しかし、その後も火星生命の探索は行われている。このほか、地下に海の存在する可能性の高い木星衛星エウロパ土星の衛星エンケラドゥス、液体メタンエタンによる海が存在する土星の衛星タイタンなども生命の存在する可能性があると考えられている。Wikipedia「生命」より」

木星の衛星エンケラドゥス(Wikipediaより)

給水タイムのを取った後の後半は、地球生物の形態や構成する物質の対称性について、実際に手を動かして学びました。まず、前の方のスライドで、ものを取り込んで変化させるという項目に矢印で「タンパク質を使う」とあったことを思い出しましょう。タンパク質は20種類のアミノ酸からなっていますが、地球生物が使っているアミノ酸は、非対称な物質なのです。タンパク質を構成しているアミノ酸は20種類ありますが、 グリシンを除いていずれもL型なのです。下の図で、Rは側鎖を示し、例えばCH3ならアラニンになります。このことも、地球上の生物は共通の祖先から進化した証拠の一つとされています。

非対称性物質の例として、コガネムシと円偏光版を各テーブルに配り、コガネムシの羽根(液晶) を左と右円偏光板を通して観察すると、どのように違って見えるかを体験してもらいました。不思議なことに、左偏光板を通した場合には、コガネムシの翅の金属光沢の緑色はちゃんと見えるのに、右偏光板を通してみると黒く見えるのです。

これは、コガネムシの翅の表面を覆うキチン質の構造が、左円偏光を生じるようなものであることを示しています。このあたりの詳しいことは、ここここを参照してください。

L型分子とD型分子の違いを実感してもらうために、黒い球に赤、青、緑、白の4つの球を均等につけた場合、2種類のものができること(あるいはそれしかできないこと) を分子模型で試してもらいました。1つは全く同じもの、もう1つは鏡像異性体(下の写真)になります。

以上のような観察・体験から、地球外生命のさまざまな可能性について考えてもらいました。

新年度が始まり、総会が、、

今年に入って新型コロナ流行の影響で、いくつかの活動する予定だったイベントが中止になり、SSISSの活動も事実上休止状態となりました。そんな中、 4月から新年度が始まりました。

昨年度末の理事会や会計監査なども、集まりの自粛の影響で顔を合わせてのものではなくなり、電子媒体を利用してのものになりました。

新年度が始まり、当初、予定していた5月30日の総会は開催が不可能となりました。それでも、活動を続けられる状態にするためには、総会を開催する必要があります。そこで、今年度の総会は集まって行うものではなく、郵便で資料を送付して行うことにしました。

会員の皆様には,間もなく郵送で総会資料を送付しますので、よく吟味していただいて、同封された議決権行使のハガキで議決するよう、お願いいたします。ハガキの返送をどうぞよろしく。

まだもうしばらくは、新型コロナの問題は完全には収束しないと思われます。会員各位におかれましては、体力、免疫力をつけて乗り切られますように祈念いたします。

8月に追記
新型コロナ問題のため、総会を集会として開催することは断念し、議決権行使書による理事長宅での 電磁的なものとしました。幸い会員の方々のご協力により、成立に必要な返信があり、昨年度の活動報告並びに決算案、今年度の活動計画並びに予算案が承認されました。総会の議事録はここにあります。

船橋市ちゅうおう生活学校での活動

上ノ山 周会員が、12月20日の午後に船橋市中央公民館で開催された船橋市ちゅうおう生活学校で「私たちを取り巻く環境問題 マイクロプラスチック汚染について」というタイトルで講演を行いました。聴講したのは、船橋市生活学校運動推進協議会事務局長・会長代行の大西智子氏をはじめとする同校の学生およそ35名でした。

上ノ山周横浜国立大学教授

講義は、1)プラスチックとは何か?2)その性質、開発の歴史的経緯、3)2つの重合形式(付加重合と縮重合)、4)種類(ビッグ6等)、5)処理問題、3つのリサイクル手法等について、順を追って平易に解説しました。

1)プラスチックとは何か?
プラスチックという言葉はだれでも知っています。英語のplasticからきたこの語は、可塑性を意味し、必ずしも合成樹脂を意味するものではありませんでしたが、日本語として定着して、プラスチックというと、レジ袋や包装用の透明容器、トレーなど、さまざまな合成樹脂の製品を指す用語として使われています。

一般家庭で使われるプラスチック製品例(英語版Wikipediaより)

2)その性質、開発の歴史的経緯
天然の樹脂である天然ゴムやアスファルトに代わるものとして、初めて工業製品としてつくられた合成樹脂がフェノール樹脂(ベークライト)でした。名前が示すように、フェノール(石炭酸)とホルムアルデヒドを重合して作られました。耐熱性と絶縁性に優れているので、自動車部品や電気製品によく使われています。子供のころには、ベークライト製品があふれていました。今は懐かしい黒電話がそうですし、スタート35というカメラの筐体がそうでした。

一光社のスタート35

フェノールのようにもとになる分子をモノマーと呼び、重合してできたものをポリマーと呼びます。ベークライトに続いて、このモノマーとして使う分子がさまざまに工夫され、それぞれ性質(特性)の異なるプラスチックが開発されました。
エチレンをモノマーとするポリエチレン(PE)、プロピレンをモノマーとするポリプロピレン(PP)、塩化ビニルをモノマーとするポリ塩化ビニル(PVC)、テレフタル酸とエチレングリコールをモノマーとするポリエチレンテレフタレート(PET)など、枚挙にいとまがありません。
プラスチック類は、金属のように錆びたり腐食せず、また軽い、形成が容易であるなどの特徴のほかに、耐熱性、絶縁性に優れているなどの長所がたくさんあるので、特性を生かした多くの製品がつくられています。多くのモノマーは石油を蒸留したナフサから得られるので、石油化学工業は大いに発展することになります。

3)2つの重合形式(付加重合と縮重合)
プラスチックは、分子量の小さなモノマーを触媒により重合させて、高分子のポリマーにしたものです。重合の仕方には主に二つあります。
付加重合というのは、二重結合を持つモノマーが、二重結合が開いて隣の分子同士が結合を繰り返していく反応です。次の図はエチレン2分子が付加重合する反応で、これが繰り返されて長いポリマー、ポリエチレンになります。枝分かれ構造を作るようにすることもできます。

一方の縮重合(縮合重合)は、2つの分子の一部(官能基)が別の分子(例えば水)となって外れ、その結果、結合ができるような反応です。下の図はテレフタル酸とエチレングリコールが脱水縮合によって結合して鎖状に長いポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)を形成する例です。それぞれの分子の両端に官能基があるので、両側に伸びていくことができるのです。PETは合成繊維として使われるとともに、ペットボトルに利用されています。ペットボトルの名前はPETからきています。

最初に述べたフェノール樹脂(ベークライト)は、フェノールとホルムアルデヒドが付加重合した後に、これが別のフェノールと縮重合したものです。このように付加と縮合が同時に起こる重合を付加縮合と呼んでいます。重合度が小さいもの(レゾールと呼ぶ)に熱をかける熱硬化反応により、分子量の大きなフェノール樹脂を作っています。

https://shibayama.issp.u-tokyo.ac.jp/one_point/files/bakelite.htmlより

4)種類(ビッグ6等)
2)で述べたようにプラスチックには多くの長所があります。欠点としては熱に弱い、傷がつきやすいことなどがあげられますが、最大の欠点は自然環境下では分解されないことです。
私たちの身の回りのプラスチックのうち、33%は包装材として使われていて、家庭ごみとして廃棄され、30%は建材として使われ不要になると産業廃棄物として排出されます。環境省のPlasticsSmartの資料によりますと、1950年以降に世界中で生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄されている、回収されたプラスチックごみの79%が埋め立てあるいは海洋に投棄されていて、リサイクルされているプラスチックは9%に過ぎないと書かれています。

排出されたごみは埋め立てられていましたが、現在では埋め立てによる処理は限界となり、リサイクルすることが課題となっています。リサイクルの際に、プラスチックの種類ごとに別々にリサイクルする必要があるために、アメリカでは1988年にプラスチック産業会が6つのプラスチックに番号を付けてリサイクルの矢印マークと組み合わせた樹脂識別コード(RIC)を制定しました(下の図)。


九州大学大学院工学府先導物質化学研究所高原研究室講義資料より

しかしながら日本では、資源の有効な利用の促進に関する法律(略称、リサイクル法、2001年4月施行)で表示が定められているのはPET(図柄は3つの矢印と1)のみで、その他のプラスチックは一括して四角い2本の矢印とプラの表示のみです。
次に述べるリサイクル手法をさらに有効に行うために、消費者として身近にあるプラスチックがどのような種類であるかを認識して、将来、さらに細かい分別収集ができるように準備をしておくのがよいのではないかと思います。

5)処理問題、3つのリサイクル手法
便利なプラスチックですが、自然環境下では分解されないために、適切にリサイクルする必要があります。リサイクルの方法には主に3つの手法があります。リサイクルされる割合の多い順に、サーマルリサイクル、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルとなります。
(1)
サーマルリサイクルは、文字通り熱源として使う方法で、焼却時の熱で発電をしたりします。現在、一般廃棄物を燃やす焼却施設は全国に2000か所以上ありますが、燃やす時の熱や蒸気を近くの健康施設や老人施設に送り、暖房や浴場の温水、また温水プールに利用しています。
(2)
マテリアルリサイクルは、回収したプラスチック製品をもう一度、新しい製品にする方法です。そのためには、ペットボトルならペットボトルだけに分別する必要があります。ラベルを外してきれいに洗ったペットボトルを、圧縮して保管します。これを処理業者が粉砕、風力分離、洗浄、比重分離を行い、8㎜程度のフレーク状にします。このフレークを利用して再度ペットボトルとして利用したり、食品用トレイやレベルなど、幅広く再利用されます。フレークはさらに熱処理によって細かいペレットにして、衣類やその他の容器などに再利用されます。
(3)
ケミカルリサイクルは、回収したプラスチック製品を化学反応により組成変換をした後にリサイクルする方法です。上で述べたように、プラスチックは主に炭素と水素から成るので、熱処理によって可燃性ガスを得たり、油状燃料を得たりします。また溶鉱炉において鉄鉱石を還元して鉄を取り出す際の炭素源として使うのも、ケミカルリサイクルです。

     http://www.pwmi.jp/tosyokan2/20_3recycle.htmlより。2009年実績

いずれにしても、環境への負荷を減らすためには、3つのR、Reduce、Reuse、Recycleを心がけることが大切です。リサイクルは3Rの最後で、その前に使用を減らし、再利用に心がけたいものです。

リサイクル手法の開発と並行して、グリーンプラスチックと呼ばれる生分解性プラスチックの開発・利用も重要になるでしょう。天然物であるセルロースやキトサンを使ったもの、乳酸を重合させたポリ乳酸を使ったものなど、製品化されていますが、ポリ乳酸は高温(50~60°C)のコンポスト施設でなければ分解されないという問題点があります。
最近になってKANEKAが、細菌が少ない常温の海水中でも分解される新しい海水中生分解性プラスチックの開発と生産の工業化に成功しました。PHBH®です。PHBH®はポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の一種で、3-ヒドロキシ酪酸 (3HB) と3-ヒドロキシヘキサン酸 (3HHx) の共重合ポリエステルであるPoly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyhexanoate) (PHBHHx) の商標名です。

有川尚志氏主論文要約ページより https://nagoya.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=25302&item_no=1&page_id=28&block_id=27

KANEKAは自社の高砂工業所の土の中から、偶然にPHBHを作り出す微生物Cupriavidus necatorを発見します。この細菌は、植物由来の油を分解して生じた脂肪酸から、β酸化経路で最終的に2つのモノマーCoAを産生し、別の酵素が2つのモノマーCoAを次々とつなぎ合わせてPHBHを産生し、自らのエネルギー源として貯蔵しています。
ただし、最初に見つかった細菌は産生するPHBHの量が少なかったので、遺伝子導入などの技術を使い産生量を高めました。そうして発酵や高分子技術を駆使してプラント建設に成功します。

SHIMADZUブーメランhttps://www.shimadzu.co.jp/boomerang/40/04.htmlより

こうして作られた製品サンプルのうち、スプーン、フォーク、ナイフを回覧して、見てもらいました。普通のプラスチックと変わりありませんね。これらの製品は、23℃の普通の海水中に88日間漬けておくだけで、かなりの程度、分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。PHBHのストローは、すでにコンビニのカフェで採用されています。

https://sciencewindow.jst.go.jp/articles/2019/0822.htmlより

さらに、比重が1に対して大であるか、小であるかで、大まかにプラスチックが分別できることを演示実験しました。
ボウルに水を張り、ポリ塩化ビニルを入れると沈みますが、ポリオレフィン(ペットボトルの蓋、ポリエチレンやポリプロピレン)は浮きます。ポリ塩化ビニルは1.35から1.45、ポリエチレンは0.91から0.92、ポリプロピレンは0.90から0.91です。ちなみにペットボトルの本体であるPETは、比重が1.34から1.39なので沈みます。
ポリスチレンのスプーンは 、真水に沈みますが、食塩を溶かしていくと浮いてきます。ポリスチレンの比重は1.04から1.09なのです。プラスチックの比重一覧はここをご覧ください。

プラスチックは、当初は電気の絶縁体として開発されましたが、 白川英樹先生が、導電性ポリマーを開発された話もしました。導電性ポリマーとして開発されたのは、ポリアセチレンの薄膜でした。ポリアセチレンは、ポリエチレンのC-C結合が一つ置きに二重結合になった構造をしています。この二重結合の電子が、ヨウ素のような電子受容体を不純物として混ぜると、動けるようになり、電子の流れ、すなわち電流となるのでした。

白川秀樹先生は、この発見によって2000年にノーベル化学賞を受賞しています。ちなみに、2019年度のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏のリチウムイオン電池は、この導電性アセチレンがヒントとなり、これを改良することで、現在のようなリチウムイオン電池の開発につながりました。

さて、プラスチックについていろいろと述べてきましたが、現在、最も大きな問題となっているのは、マイクロプラスチックによる海洋汚染です。マイクロプラスチックというのは、5mm(1mmという意見もある)以下の細かいプラスチックの微粒子を指し、生分解性ではないプラスチックが海洋投棄をされたり、めぐりめぐって海に入りこんだりして、波の力と太陽光、特に紫外線によって形成されたものと、研磨剤などとしてもともと微粒子として生産されたものがあります。
マイクロプラスチックは、北極海でも見つかっており、考えているよりも広く汚染されている恐れがあります。
マイクロプラスチックが生物に与える影響については様々な議論がありますが、摂食されて物理的に影響,傷害や閉塞、を与えたり、マイクロプラスチック表面に吸着された有害な化学物質が悪さをすることが考えられます。さらなる研究と先を見越した対策が必要になるでしょう。役に立ちそうな記事がここにあります。

https://www.nceas.ucsb.edu/news/scientists-say-microplastics-are-macro-problemより

世界中でその解決が喫緊の課題となっている「プラスチックによる環境汚染問題」を、自分のこととして意識してもらう切っ掛けになったとすれば幸いです。

八王子市中学校科学コンクール研究発表会での活動

大井みさほ、奥田治之、和田勝の各会員が、八王子市にある東京工業高等専門学校で12月7日に開催された八王子市中学校科学コンクール研究発表会に参加しました。

今年で11回目になる八王子市教育委員会・八王子市立中学校PTA連合会主催の八王子市中学校科学コンクールでは、各中学校から164題の作品が提出されました。そのなかから先生たちによって40題が選ばれ、さらにそこから10題が選ばれ、最優秀賞、優秀賞が選出され、残りの8題がポスタープレゼンテーションとなりました。残りの30題の作品は、閲覧できるように会場に展示されていました。

去年の反省から共催・協賛賞の選考委員は、まとまって順番にポスターをめぐり、じっくりと演者の行うポスター発表を聞いて質疑応答を行うことができました。欠席があったので7題となったすべてのポスター発表を聞いた後、別室に移って協議して、各賞受賞者を決定しました。協賛団体であるSSISSも、2題を選出しました。

発表会場に移動した後、最優秀賞・優秀賞のスライドを使った口頭発表を聞きました。その後、授賞式が行われ、最優秀賞には賞状のほかトロフィーと盾、副賞が、優秀賞には盾と副賞が贈呈されました。SSISS賞の2題に対しては、大井理事長が賞状と副賞を授与しました。

授賞式開会のご挨拶
豪華な副賞は、協賛のオリンパスから。右端がSSISS賞の副賞
受賞した生徒たちと授与した人たちの記念撮影