奥田治之会員が、11月5日の夕方から高尾山学園で、「月の鑑賞会 -お盆のような月、鏡のような月」というタイトルで、文字通りの月の鑑賞会と月にまつわるお話をスライドを使っておこないました。有山正孝会員もお手伝いで参加しました。受講したのは同学園の生徒20名、その保護者5名、同学園の教職員13名でした。
この日は満月ではなく月齢8.0でしたが、後で書くように月はきれいに見えました。夕方、会を始めた時は雲が出ていたので、最初にスライドを使って月についてお話をすることになりました。タイトルは上に書いたように「お盆のような月、鏡のような月」です。たしかに月というと、すぐに「♪出た、出た月が、まあるいまあるいまんまるい、盆のような月が」の歌が思い起こされます。副題に、「不思議いっぱいなお月さま」とあります。いつも見慣れていて、当たり前と思っている月に、どんな不思議があるのでしょうか。さあ、始まりです。
最初のスライドに映し出されたのは、東の空に昇った月。大きくて少し赤っぽく見えます。
月の見かけの大きさ(角直径)は約0.5度で、実はこれは太陽の見かけの大きさと同じです。月が上空に来た時は上の写真よりも小さく見えますが、大きさが変わるわけではありません。5円玉あるいは50円玉を持って腕を伸ばし、穴を通して月を見てください。ちょうど穴にすっぽりおさまる大きさです。上った直後の月も上空の月も、同じように穴にぴったり収まるので、大きさが変化したわけではないことが分かります。月は地球に最も近い天体で、地球の直径の約30倍、距離にして38万km離れた位置にあります。上の数値から月の大きさ(直径)が計算できますね。
どうして地平線に近い月は大きく見えるのか、実はまだよくわかっていないそうです。有力な説は、これは錯視の一種で、地平線に近い方が比較する地上のものがあるからだといわれています(日本心理学会のページより)。上に書いたように太陽も見かけの視度はほぼ同じなので、5円玉の穴に収まりますが、太陽をそのように見ないでくださいね、眼を痛めますから。
月は太陽と並んで、誰もがふだんから目にする、最もなじみ深い天体です。昔は夜道の明かりとして利用されましたし、暦(太陰暦)として生活に密着したものでした。月の満ち欠けは、潮の満ち干と関係があり、そのため、特に海産生物の生活リズムと深い関係があります。たとえば、身近なところではクサフグやアカテガニの産卵行動、あるいはウミガメやサンゴの産卵行動と関連しています。サンゴの放卵が一斉に起こるのをテレビで見たことがある人もいるでしょう。いずれも大潮のときに起こります。そのため漁師は昔から月の満ち欠けで出漁を判断していました。
上で触れた「お月様」以外にも、「月の砂漠」や「朧月夜」などの童謡に歌われ、「荒城の月」や「Moon River」など月がタイトルに入った名曲がいっぱいあります。和歌や俳句にもうたわれていますよね、それだけ身近なのです。そうそう、日本にはお団子とススキを供えて中秋の名月をめでるお月見があります。最近はあまり見かけなくなった気がしますが。
上のお月見のイラストでは、月の中でウサギが餅つきをしています。日本では昔から、冒頭の写真に見える月の表面の黒い部分を、ウサギが餅つきをしていると見立てていますが(でも2頭はいませんね)、カニに見立てたり、女性の横顔に見立てる国・地域もあるようです。この黒い部分は「海」とよばれていますが、実際に水をたたえた海があるわけではありません。
月は太陽のように自分で光っているわけではありません。太陽の光を反射しているのです。反射した光が地球に到達して白く見え、反射が少ない部分は黒く見えているのです。
盆のように丸く、鏡のように輝く月、でも月は球体で平面ではありません。もしも鏡のように反射するのなら、次の宇宙船から見た地球に太陽が当たっている写真のように、狭い範囲が光っているだけなはずです。
月に当てはめれば、次のイラストのように、太陽の位置によって光る位置が変わるけれど、一点だけが光るはずです。
月は球体なのに、盆のように丸いと形容されます。たしかに上の地球の写真は球体のように感じるけれど、次の写真(この写真は2018年1月22日に筆者が撮影したスーパームーン)では、縁もはっきりと見えて平べったい感じがしますね。
これは次のイラストのように考えると納得がいきます。
これらの二つの謎を解くカギは、月の表面を覆っているのが、大きさミクロンサイズの細かい砂粒である点にあります。月の表面というと、クレーターがあるのでゴツゴツした地形のように思ってしまいますが、実は月の表面は20~30m、海の部分で2~8mの厚さで細かい砂粒で覆われているのです。これは宇宙から高速で降り注いだ隕石が、大気がないので燃え尽きずに降り注いで砕け散り、溜まったものです(地球上では燃え尽きて流れ星になります)。高速で衝突して溶けて再び固まるので、ガラス質も含んでいます。1969年7月に、アポロ計画で月に降り立った宇宙飛行士の足跡を見ると、砂粒の様子がよく分かります。この砂粒が、光を全方向に反射するために、どこも一様に光って見えるのです。
ちょっと脱線。上の足跡の写真ですが、宇宙飛行士と一緒に左下に移っている足跡はへこんで見えますが、下の拡大した写真は足跡が盛り上がっているように見えませんか?これは錯視の一種です。画面を180度回転させてみてください。パソコンだとできないかも、その場合は頭を180度回転させて画面を見てください。今度はへこんでいるように見えますよね。これは、光は上の方からくるという前提で脳が解釈しているためです。
月の表面には、大中小と大きさの異なる多数のクレーターがあります。これは38から46憶年前に起こった隕石の衝突で生まれたものです。地球上にも同じような隕石衝突跡があったのですが、空気や水があるために、その浸食作用で消失しました。残っているもので有名なものはアメリカのアリゾナにあります。月のクレーターは小型の望遠鏡で簡単にみることができます。後で観察できますからお楽しみに。
ところで月の表面を観察していると、いつも同じ面しか見えていないことに気が付きます。月は、その裏側を見せてくれないのです。これは月の自転周期(27.32日)が地球の周りをまわる公転周期と一致しているからです。最初にソ連、次にアメリカの探査機が月の裏側を撮影することに成功しました。アメリカの撮影した裏側の写真を、表側のものと比べてみましょう。
このように月の表面の高さは表と裏でだいぶ異なり、表側は高低差が少なく、裏側は高低差が大きいことが分かります。地殻の厚さに表側と裏側で差があるためだと考えられています。
イラストの中に書かれているように、表側の方が地殻が薄いために、隕石が衝突した後、マグマが下からあふれてクレーターを覆い隠して黒い部分、つまり海ができたと考えられています。どうして表と裏で厚さが異なるのか、月の誕生と関係しているようですが、よくわかっていないようです。
月はいつでも満月ではないですよね。下の図の左上の新月から満月へ、また新月へと光る部分の大きさを変えていきます。月齢と言います。
この月の満ち欠けは、月が地球の周りを周回しているため、光を照射する太陽と、光を受ける月と、観察する地球の間の相対的な位置関係が刻々と変わっていくためにために生じます。図示すれば次のようになります。外側に描かれた月は、地球からの見え方を示しています。
見え方の変化の詳しい説明はこのページにあります。
自作の模型を使って、月の満ち欠けの様子を実感してみましょう。下の写真が、講義で使った模型です。三体模型ではないので観察者が模型の周りを回ると、月の満ち欠けを再現することができます。写真に写っているように模型の手前から見ると下弦の月、模型の右側に回って見ると新月、向こう側からみると上弦の月、左側から見ると満月になります。実際には、月が地球の周りを回っているので、その様子を示した動画を載せておきます。
裏話を少し。この模型は、研究所に転がっていた廃材を使って組み立てたものですが、月が全体的に光る様子を再現するのに苦労しました。右は金属球を月に見立てたものですが、これだと、上の方で述べた地球と同じで、一点が光ってしまい盆のような月にはならないのです。一方、左の方は発泡スチロールの球を使いました。これだと、発泡スチロールの表面の細かい粗面が、細かい砂粒と同じように働いて、全体的に反射するという状況をよく再現して、盆のような月になります。
ここで少し脱線。満月は実は真ん丸ではない?!
実は、本当の満月を見ることはできないのです。その理由は次のイラストにあるように、月の公転周期面が地球の公転周期面とおよそ5度の角度で傾いているためです。
イラストにあるように、満月の時ほんのわずかですが地球から見て上にあるので、太陽からの光がずれるためです。本当に真ん丸に見えるのは、太陽・地球・月が一直線に並んだ皆既月食の時です。でもその時は月食ですから太陽の光は地球にさえぎられて光っていないはずですよね。でも実際は、日食の場合と違って、皆既月食の時の月は赤く見えるのです。
地球が太陽の光をさえぎってしまう皆既月食、でも赤く見える。その理由は、次のイラストにあるように、赤い波長の光は地球を回りこんで月を照らすからなのです。
月は大昔から知られていて、長年にいわたって調べつくされてきました。それでも、よく見たり考えたりすると、まだまだ不思議なことが見つかって、興味のつきない天体です。身近に観察できる月を眺めて、その美しさをめでるとともに、新しい発見を楽しんでください。
ちょうど話が終わったときに、雲が切れて月がきれいに見えると分かりました。みんな勇んで2台の天体望遠鏡が設置されている校庭に向かいました。
望遠鏡で眺めると、クレーターがはっきりと観察でき、みんな感激!聞いたばかりの話をかみしめながら、月を眺めていました。せっかくなので、月から望遠鏡をちょっとずらして土星も観察。土星の輪がはっきりと見えて、こちらも感激。実際に「見る」ことの大切さがよくわかりました。
最後に余計なことを。備品の天体望遠鏡は管理が悪いためか、事前にチェックした時は正常な動作をせず、ちょっと修理をしました。それでも当日、操作に苦労しました。理科教材のメインテナンスにかかる人員が十分ではなく、せっかくの備品が箪笥の肥やしになってしまっているのではと危惧します。